はじめに:アッシュ系カラーの「失敗」を「成功」に変える技術
アッシュ系カラーの成否は、アンダーの黄みと薬剤の青のバランスを見極める診断力で決まります。美容師歴20年以上の「髪技屋さん」です。サロンワークにおいて、アッシュ系カラーはもはや定番中の定番。お客様からのオーダーも非常に多いですが、同時に「思ったより緑っぽくなった」「毛先が暗く沈んでしまった」といった失敗の声を聞くことも少なくありません。
特にブリーチ毛やダメージ毛への施術は、アンダーカラーの影響を強く受けるため、繊細な薬剤コントロールが求められます。この記事では、プロ美容師の皆さんが明日からサロンワークで使えるよう、アッシュ系カラーでよくある「緑転び」と「くすみすぎ」の原因を理論的に解説し、具体的な回避テクニックとリカバリー調合レシピを詳しくご紹介します。
2025年アッシュ系トレンドとサロンが直面する課題
2025年も「透明感」と「赤み消し」を両立するアッシュ系カラーが引き続き主流です。スモーキーアッシュやラベンダーアッシュ、アッシュベージュなど、くすみ感と柔らかさを兼ね備えたスタイルがトレンドの中心となっています。お客様のニーズも「赤みやオレンジみをしっかり消したい」「でも、透明感は欲しい」という、一見相反する要望が増えています。
このニーズに応えるのがアッシュ系薬剤ですが、ここにプロとしての課題が生じます。赤みを消す力(青み)が強いほど、ベースの黄みと反応して「緑」に転びやすくなる。また、透明感を意識しすぎると、ダメージ部分で色素が過剰に反応し「くすみすぎる」というジレンマです。この課題を克服することが、顧客満足度に直結します。
なぜアッシュ系は失敗しやすいのか? 2大原因のメカニズム
失敗の根本原因は、日本人の髪特有のアンダーカラーとアッシュ系薬剤(青)の補色関係にあります。アッシュ系カラー剤の主色素は「青」です。この「青」が、お客様の髪のベースカラー(アンダーカラー)と混ざり合うことで、意図しない色に変化してしまうのです。
失敗パターン1:「緑転び」のメカニズム
サロンで最も多い失敗が「緑転び」です。これは非常にシンプルな色彩理論に基づいています。 「黄」(アンダーカラー) + 「青」(アッシュ剤) = 「緑」 特にブリーチで14〜16レベルまでリフトアップした髪は、赤みが消えて強い「黄み」が残ります。このベースに、黄みを消す意識が強すぎてアッシュ系薬剤をそのまま塗布すると、薬剤の青が黄みと混ざり、見事な緑色に発色してしまうのです。私の経験上、特にブリーチカラーの経験が浅い中級者が陥りやすいポイントです。
失敗パターン2:「くすみすぎ・沈み込み」のメカニズム
「緑にはならなかったが、全体的に暗く、濁った仕上がりになった」というのもよくある失敗です。これは「沈み込み」と呼ばれる現象が主な原因です。
- 原因1:ダメージによる過剰吸着 毛先や表面などのハイダメージ部分は、キューティクルが開き、髪の内部(コルテックス)がむき出しに近い状態です。ここに色素が濃いアッシュ系薬剤を塗布すると、スポンジが水を吸うように色素を過剰に吸着し、一気にトーンダウンして濁った色調になります。
- 原因2:補色の入れすぎ 緑転びを恐れるあまり、補色である「紫」や「ピンク」を必要以上に添加すると、今度はその色素が勝ちすぎてしまい、アッシュ本来の透明感が失われ、濁った「くすみ」に繋がります。
専門用語解説:アンダーカラーと補色
- 赤みの補色 → 緑(マット系)
- オレンジみの補色 → 青(アッシュ系)
- 黄みの補色 → 紫(バイオレット系)
【実践】失敗回避の施術手順と調合レシピ
失敗回避の鍵は「正確な診断」「補色の微調整」「クリア剤の活用」という3つのプロセスにあります。理論を理解したら、次は実践的なテクニックです。私のサロンで行っている、失敗を未然に防ぐための手順と調合をご紹介します。
ヘアカラー施術は、アレルギー反応(かぶれ)を引き起こす可能性があります。お客様の安全のため、施術の48時間前には必ずパッチテスト(皮膚アレルギー試験)を実施してください。
📋 アッシュ系 失敗回避の3ステップ
アンダーカラー診断(黄み・オレンジみのレベル確認)
薬剤調合(補色とクリア剤の選定)
塗布技術(時間差・オキシ濃度調整)
STEP1:アンダーカラー診断(最重要)
薬剤選定の前に、お客様のアンダーカラーを正確に診断します。ウェット状態とドライ状態では見え方が異なるため、必ずドライの状態でチェックします。特に「どのレベルの黄みか?」を見極めます。
- 15レベル〜(ペールイエロー): 緑転びリスク【高】。紫の補色が必須。
- 12〜14レベル(イエロー): 緑転びリスク【中】。紫の補色を推奨。
- 10レベル(オレンジイエロー): オレンジみが残るため、緑より「くすみ」が出やすい。アッシュ(青)でオレンジを打ち消す。
STEP2:薬剤調合(プロ用薬剤)
診断に基づき、薬剤を調合します。ここでは代表的なプロ用薬剤のミルボン(オルディーブ アディクシー)とウエラ(イルミナカラー)を例にします。
記事で紹介しているプロ用薬剤は、画面下部の「PR⭐️Amazonで探す」からチェックできます。ご自身のサロンの薬剤と照らし合わせて、ヘアカラーレシピの参考にしてください。
「緑転び」を回避する調合
ベースの黄みを打ち消すため、補色として「紫(バイオレット)」をミックスします。私のサロンでは、メインのアッシュ系薬剤に対して10%〜最大20%の範囲で紫を添加します。紫が強すぎると赤みが出てしまうため、微調整が鍵です。
調合例(16レベル・黄みベース): ミルボン アディクシー サファイア (9) + アメジスト (9) = 5 : 1 オキシ: 3% (1:1)
「くすみすぎ」を回避する調合
毛先の沈み込みや、仕上がりが暗くなりすぎるのを防ぐため、色素を含まない「クリア剤」をミックスします。薬剤のトーンは維持したまま、色素濃度だけを薄めることができます。ダメージレベルに合わせて20%〜30%を添加します。
調合例(ハイダメージ毛・沈み込み防止): ウエラ イルミナカラー オーシャン (10) + クリスタル = 3 : 1 オキシ: 3% (1:2)
📊 アッシュ系 失敗回避調合レシピ
| ベース状態(目的) | 調合レシピ(ミディアムヘア目安) | 放置時間 | 施術時間(目安) |
|---|---|---|---|
| 16レベル (黄み) 【緑転び回避】 | アディクシー 9サファイア 40g + 9アメジスト 8g (5:1) + OXY 3% 48g (1:1) (仕上がり 9レベル スモーキーアッシュ) | 15分 | 約120分 (ブリーチ含まず) |
| 12レベル (毛先ダメージ) 【くすみすぎ回避】 | イルミナ 10オーシャン 40g + クリスタル 13g (3:1) + OXY 3% 106g (1:2) (仕上がり 10レベル クリアアッシュ) | 20分 | 約90分 |
| 10レベル (オレンジみ) 【赤み消し】 | アディクシー 7サファイア 50g + 7シルバー 10g (5:1) + OXY 6% 60g (1:1) (仕上がり 7レベル アッシュベージュ) | 25分 | 約90分 |
STEP3:塗布技術(時間差・オキシ調整)
調合が完璧でも、塗布で失敗することがあります。特にハイダメージ毛は、薬剤の反応速度が速く、均一に染まりません。
- 時間差塗布: 最も沈みやすい「毛先」を避け、根元〜中間を先に塗布します。5〜10分放置後、毛先に薬剤を塗布します。
- オキシの調整: 毛先は反応が速いため、オキシ濃度を3%や1.5%に下げる、またはクリア剤を混ぜた別レシピを用意して塗り分けるのが確実です。
プロのコツとNG対応
万が一失敗しても、原因を理解していれば冷静なリカバリー(お直し)が可能です。失敗を恐れすぎる必要はありません。重要なのは、なぜその結果になったかを分析し、適切に対処する技術力です。
⚠️ アッシュ系施術の注意点: 補色(紫)の入れすぎは、アッシュの透明感を打ち消し、新たな濁りの原因になります。私の経験上、補色はメイン薬剤の10%以内(多くても20%)に留め、微調整に使うのが鉄則です。
⚖️ アッシュカラー技術 NG vs OK
❌ NG例
- 16レベルの黄みベースにアッシュ単色で塗布(→緑転び)
- ハイダメージ毛にレシピ通りの薬剤をワンタッチ(→沈み込み)
- 緑を恐れ、紫を30%以上ミックス(→濁ったバイオレット)
✅ OK例
- 黄みベースに紫(補色)を10%添加
- 毛先はクリア剤で希釈、または低オキシ (1.5%) を使用
- 塗布の時間差をつけ、毛先の吸い込みをコントロール
失敗時のリカバリー方法
もし意図しない発色になった場合、以下の方法でリカバリーします。
緑に転んだ場合の対処法
緑の補色は「赤」です。ただし、赤をそのまま使うと強すぎるため、ピンク系やラベンダー系の薬剤を使います。 シャンプー台で、12レベルのピンク系カラー剤とクリア剤を「1:5」程度に薄め、低オキシ(1.5%など)で調合したものを全体に塗布し、乳化させながら色をチェックします。5分ほどで緑みが中和され、柔らかなアッシュベージュに補正できます。
くすみすぎた・沈んだ場合の対処法
アッシュ(青)は色素粒子が大きく、比較的落ちやすい色です。まずは洗浄力の高いシャンプーで数回洗う「シャンプーオフ」を試します。 それでも暗すぎる場合は、アルカリクリア(ライトナーや0レベルのクリア剤)にOXY 3%を1:2で混ぜた薬剤を使います。沈んだ部分に素早く塗布し、5〜10分放置して色素をリフトアップさせます。これはブリーチではないため、ベースを傷めすぎずに色素だけを穏やかに分解できます。適切なダメージケアも必須です。
顧客対応のヒントとリアルな声
技術と同じくらい重要なのがカウンセリングです。ブリーチベースのお客様には「黄みが強いため、緑になるのを防ぐために補色の紫を少し混ぜますね」と事前に説明することで、プロとしての信頼感が生まれます。
また、アッシュ系は色落ちが早い特性も伝えておく必要があります。「色落ちすると黄みが出やすいので、ご自宅では紫シャンプー(ムラシャン)を使うと、キレイなアッシュが長持ちしますよ」と、ホームケアまで提案しましょう。
- 成功例 (30代美容師): 「ブリーチ毛のお客様に、アディクシーのサファイアとアメジストを7:1で使ったら、緑にならず理想のスモーキーグレーに仕上がったと喜ばれました。」
- 失敗例 (20代美容師): 「毛先のダメージを見誤り、イルミナのオーシャンを根元と同じ感覚で塗ったら、毛先だけ5レベルくらい暗く沈んでしまいました…。」
- 筆者コメント: この「毛先の吸い込み」は、20年の経験でも最も神経を使うポイントです。私にとってクリア剤と低オキシは、アッシュ系施術に欠かせない相棒です。
よくある質問(FAQ)
アッシュ系に関するお客様やスタッフからのよくある疑問を解消し、提案力を高めましょう。
- Q1. ブリーチなしでもアッシュ系は可能ですか?
- A. 可能です。ただし、ブリーチなしの場合、仕上がりの明るさには限界があります(日本人の地毛は通常4〜6レベル)。ブリーチなしで可能なのは、地毛の赤みを抑えた「ダークアッシュ」や「アッシュブラウン」です。イルミナカラーやアディクシーなど、赤み消しに特化した薬剤の8〜10レベル(6%オキシ使用)が適しています。ハイトーンのような透明感は出にくいですが、地毛風の柔らかいアッシュに仕上がります。
- Q2. アッシュ系が色落ちするとどうなりますか?
- A. アッシュ(青)の色素は髪の表面近くに定着しやすいため、色落ちが比較的早い(約1〜2週間)特性があります。アッシュが抜けると、ベースのアンダーカラー(黄みやオレンジみ)が見えてきます。ブリーチ毛の場合は黄みが、ブラウンベースの場合はオレンジみがかったブラウンに戻っていくのが一般的です。色落ちの過程も楽しめると伝えるか、カラーシャンプーでの維持を推奨します。
- Q3. アッシュ系が似合うパーソナルカラーはありますか?
- A. アッシュ系(寒色)は、一般的に「ブルーベース(ブルベ夏・ブルベ冬)」の方の肌の透明感を引き立て、非常に相性が良いとされています。逆に「イエローベース(イエベ春・イエベ秋)」の方が青みの強いアッシュにすると、顔色が悪く見えてしまう場合があります。イエベのお客様には、アッシュにベージュやオリーブを混ぜた「アッシュベージュ」や「オリーブアッシュ」など、少し黄み寄りの寒色を提案すると似合いやすくなります。パーソナルカラー診断の知識も持っておくと提案の幅が広がります。
まとめ:アッシュ系を制する者は、トレンドカラーを制する
アッシュ系カラーの失敗「緑転び」と「くすみすぎ」は、決して怖いものではありません。その原因は、アンダーカラーの「黄み」と薬剤の「青」のシンプルなバランスにあります。
プロとして、このバランスを正確に診断し、「補色の紫」と「希釈のクリア剤」という2つの武器を使いこなすことができれば、アッシュ系カラーは最強の技術になります。2025年も続くアッシュトレンドをマスターし、お客様の「なりたい透明感」を叶えることで、サロンの信頼とあなたの指名リピート率を確実に高めていきましょう。
私のYouTubeチャンネル「髪技屋さん」では、動画でダブルカラー施術手順を解説していますので、そちらもぜひ参考にしてください。
📚 参考文献
- ミルボン オルディーブ アディクシー公式サイト
- ウエラ イルミナカラー カラーチャート
- 日本ヘアカラー協会(JHCA) 技術ガイドライン
※本記事はプロ美容師向けの技術情報であり、セルフカラーを推奨するものではありません。アレルギーや症状が気になる場合は医師に相談してください。
この記事が役立ったら、美容師仲間とシェアして技術を高め合いましょう!
