美容師国家試験の「合格基準」とは?(はじめに)
合格基準は筆記と実技の両方に設定されています。美容師国家試験に合格するためには、「筆記試験」と「実技試験」の両方の合格基準を同時に満たす必要があります。どちらか一方だけが良くても合格にはなりません。
多くの受験生が合格率の数字だけを見て「意外と簡単?」と油断しがちですが、実際には非常に厳格な基準が設けられています。特に筆記試験には「足切り」があり、実技試験は「減点方式」が採用されています。
この記事では、公益財団法人理容師美容師試験研修センター(REBC)の公式情報を基に、国家試験の正確な合格基準と、合格率の推移について詳しく解説します。基準を知ることが、合格への第一歩です。
【筆記試験】合格ラインと「足切り」の罠
筆記は「全体の60%以上」かつ「全課目0点なし」が基準です。筆記試験の合格基準は、次の2つの条件を「両方」満たす必要があります。どちらか一方でも欠けると不合格となります。
- 1. 全55問中、60%以上(33問以上)の正答率であること。
- 2. 全ての課目において「無得点(0点)」がないこと。
最大のポイントは「2. 無得点がないこと」です。これは、いわゆる「足切り」と呼ばれる制度です。
例えば、全体の点数が55問中40問正解(約72%)と高得点でも、関係法規・制度(5問)や衛生管理(10問)など、いずれか1つの課目で0点を取ってしまうと、その時点で不合格が確定します。
筆記試験の課目は以下の通りです(※第52回試験時点)。
- 関係法規・制度及び運営管理
- 公衆衛生・環境衛生
- 感染症
- 衛生管理技術
- 人体の構造及び機能
- 皮膚科学
- 香粧品化学
- 文化論
- 美容技術理論
苦手分野を作らず、全ての課目で最低1問は正解する「広く浅い」知識が求められるのが、筆記試験の特徴です。
【実技試験】減点方式の合格ラインと失格事項
実技は衛生・技術ともに規定の減点ライン以下が基準です。実技試験は、筆記試験のような点数積み上げ式ではなく、「減点方式」で採点されます。持ち点(満点)から、ミスや不備があるたびに点数が引かれていきます。
合格基準は「衛生」と「技術」の2つの側面で判断されます。
- 1. 衛生上の取扱試験: 減点が20点以下であること。
- 2. 基礎的技術試験(第1課題 カッティング): 減点が30点以下であること。
- 3. 基礎的技術試験(第2課題 ワインディング or オールウェーブ): 減点が30点以下であること。
特に重要なのが「1. 衛生上の取扱試験」です。これは技術試験中、常に審査されています。技術がどれだけ完璧でも、衛生面での減点が20点を超えた時点で不合格となります。
例えば、使用済み器具と未使用器具のトレイを間違える、手指消毒のタイミングを忘れる、服装や頭髪が規定違反である、といった点が厳しくチェックされます。
減点方式とは別に、「失格」となる重大な違反行為があります。例えば、「標準仕様適合シール」が貼られていない器具(ウィッグやロッドなど)を使用した場合、試験を受けることすらできません。また、試験中にモデルウィッグを床に落としてそのまま使用するなど、衛生上の重大な過失も失格対象となり得ます。
技術面(カッティングやワインディング)では、タイムオーバーや大きなデザインミス、切り残し、ウェーブの割れなどが主な減点対象です。日頃の練習で、タイム内に正確に仕上げる技術と、衛生手順を体に染み込ませることが合格の鍵となります。
📊 美容師国家試験 合格率の推移(最新データ)
合格率は春(新卒)が約85-90%、秋(既卒)が約55-60%です。美容師国家試験は年2回、春期(2月・3月実施)と秋期(8月・9月実施)に行われます。
この2つの試験では、合格率に大きな差があるのが特徴です。
- 春期試験: 主に美容専門学校の新卒生(昼間・夜間課程)が受験します。学校で毎日対策を行ってきた受験生が多いため、合格率は約85%~92%と非常に高くなります。
- 秋期試験: 主に既卒生(春期で不合格だった人)や、通信課程の卒業生が受験します。働きながら勉強する人や、一度試験から離れた人も多いため、合格率は約55%~60%と低くなる傾向があります。
以下は、理容師美容師試験研修センターが公表している過去5回(春期・秋期)の「全課目受験者」の合格率の推移です。
📊 美容師国家試験 合格率の推移(全課目受験者)
| 試験回 | 実施時期 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
|---|---|---|---|---|
| 第51回 | 2025年(令和7年) 春期 | 17,458人 | 15,684人 | 89.8% |
| 第50回 | 2024年(令和6年) 秋期 | 4,337人 | 2,569人 | 59.2% |
| 第49回 | 2024年(令和6年) 春期 | 17,707人 | 15,798人 | 89.2% |
| 第48回 | 2023年(令和5年) 秋期 | 4,272人 | 2,632人 | 61.6% |
| 第47回 | 2023年(令和5年) 春期 | 18,485人 | 16,400人 | 88.7% |
※公益財団法人理容師美容師試験研修センターの公表データに基づき作成
新卒生(春期)は9割近くが合格していますが、決して試験が簡単なのではなく、学校での徹底した対策の成果です。逆に言えば、対策が不十分なまま受験する秋期試験は、6割近くが不合格になる厳しい試験であると認識すべきです。
合格基準を突破する学習の優先順位(筆者経験)
筆記は「足切り回避」、実技は「衛生の徹底」が最優先です。美容師歴20年以上の私から見ても、国家試験の合格基準は「美容師として最低限必要な知識と技術」を問う、非常によくできた内容です。
合格基準を踏まえ、効率的に学習を進めるための優先順位をお伝えします。
- 足切り対策: まず全課目で最低1点を取ること。特に問題数が少ない「文化論」や「関係法規」などで0点を取らないよう、過去問で広く浅く勉強します。
- 得点源の確保: 「衛生管理」や「美容理論」など、問題数が多く得意な分野で確実に点数を稼ぎ、全体の60%ライン(33問)を目指します。
- 衛生の徹底: 減点20点の壁が最も低く、厳しいです。技術練習の時から「消毒」「器具の配置」「服装」をセットで練習し、無意識にできるレベルまで習慣化します。
- タイム厳守: まずは時間内に終わらせることを目指します。タイムオーバーは大きな減点対象です。
- 技術の精度UP: タイム内に終わるようになってから、カッティングの左右バランスやワインディングの収まりなど、細かい技術の精度を上げて減点を減らしていきます。
特に実技の衛生は、サロンワークでもお客様の安全を守る基本中の基本です。試験だからやるのではなく、プロとしての習慣を身につけるつもりで取り組んでください。
よくある質問(FAQ)
受験生からよく寄せられる、合格基準に関する質問にお答えします。
Q1: 筆記か実技、片方だけ合格した場合は?
Q2: 筆記試験の「足切り(無得点)」とは具体的にどういうことですか?
Q3: 実技試験で一発失格になるのはどんな時ですか?
⭐ まとめ
美容師国家試験の合格基準は、単に点数を取れば良いというものではなく、プロとして必要な知識と技術がバランス良く備わっているかを問うものです。
- 筆記試験: 全体60%(33問)以上の正答 + 全課目で0点回避(足切りなし)。
- 実技試験: 減点方式を採用。衛生(減点20点以下)、第1課題(減点30点以下)、第2課題(減点30点以下)の全てをクリア。
- 合格率: 新卒(春期)は約90%と高いが、既卒・通信(秋期)は約60%と厳しい。
特に実技の「衛生」と筆記の「足切り」は、多くの受験生が見落としがちなポイントです。合格基準を正しく理解し、弱点を作らないよう計画的に対策を進めていきましょう。
🔍 最新情報の確認をお忘れなく
美容師法や衛生基準は、法改正や社会情勢により変更されることがあります。本記事の情報は投稿時点のものであり、古くなっている可能性があります。
⚠️ 受験直前には、必ず以下の公式サイトで最新の試験要項・出題基準・法令をご確認ください。
• 理容師美容師試験研修センター(試験要項・過去問)
• 厚生労働省(美容師法・関係法令)
• 通学中の美容専門学校(最新教科書)
※本記事の情報に基づいて生じたいかなる損害についても、当サイトは責任を負いかねます。
📚 参考文献
- 公益財団法人理容師美容師試験研修センター(公式サイト・過去の試験実施状況・合格基準)
- 厚生労働省(美容師法)
- 公益社団法人日本理容美容教育センター「美容技術理論」「衛生管理」(美容師養成施設教科書)
※本記事は美容師国家試験の学習を補助する一般情報です。健康上の問題(アレルギー、皮膚疾患等)については専門の医師に相談してください。
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