はじめに:カットの精度はブロッキングで決まる
プロの仕事とは、正確なブロッキングから始まります。美容師歴20年以上「髪技屋さん」の私から見ても、カットが上手いスタイリストほど、最初のブロッキング(セクショニング)が驚くほど正確でスピーディーです。
アシスタント時代に「なぜそこまで細かく分けるのか」と疑問に思ったことはありませんか?感覚でカットを進めてしまい、左右非対称になったり、狙った通りのウエイト(重さ)が出なかったりする失敗は、そのほとんどがブロッキングの甘さに起因します。
この記事では、プロ美容師として今さら聞けないブロッキングの基本理論から、サロンワークで即戦力となる4分割、5分割、そして9分割といった応用パターンまでを徹底的に図解(テキスト解説)します。お客様の髪質・骨格診断に基づいたセクションの取り方をマスターし、カットの精度と再現性を高めましょう。
なぜ今、ブロッキング技術の再確認が重要なのか
トレンドの変化が、より精密なブロッキングを求めているからです。2025年のヘアトレンドは、「フェイスレイヤー」や「マッシュウルフ」、そして重さを残した「クラシカルボブ」など、デザインの「部分」にこだわるスタイルが主流です。
例えば、顔周りだけレイヤーを入れる場合、フロントとサイドのセクションをどれだけ正確に分けられるかで、仕上がりのニュアンスが全く変わってしまいます。また、ウルフカットのようにトップの動きとネープのくびれを両立させるスタイルは、各セクションの役割を明確にする多分割ブロッキング(6分割や9分割)が不可欠です。
私の経験上、カットに迷いが生じる原因の多くは「切るべき場所」と「残すべき場所」の境界線が曖昧なことです。ブロッキングは、その境界線を決める「設計図」そのもの。この設計図が正確であればあるほど、カットの迷いは消え、リフティング(持ち上げる角度)やオーバーダイレクション(引き出す方向)も正確に実行できます。
ブロッキング(セクショニング)の基本理論
ブロッキングは「頭の丸み」を平面に分けて制御する技術です。私たちは球体である頭に対してカットを行っています。そのままカットすれば、場所によって引き出す角度や距離がずれ、ラインが歪みます。ブロッキングは、頭をいくつかの平面(セクション)に分けることで、施術の精度と再現性を担保する技術です。
- 正中線 (センターパート): 頭頂部からネープまで、顔を縦に真っ二つに分ける中心線。左右対称の基本となります。
- イヤー・トゥ・イヤー: 耳の後ろ(または耳上)を通り、頭頂部で左右をつなぐ線。フロント(前方)とバック(後方)を分けます。
- 水平スライス (ホリゾンタル): 床と平行な線。重いライン(ワンレングス)や段差(グラデーション)を作る際に使います。
正確なブロッキングは、これらのラインをコームの根元(テールではなく)を使って、頭皮に対して垂直に、かつ迷いなく引くことから始まります。特に⚠️ 髪が濡れている状態(ウェットカット)でブロッキングが歪んでいると、乾いた時にその歪みが何倍にもなって現れるため、細心の注意が必要です。
施術手順とブロッキング展開図解説
骨格診断に基づき、分割パターンを選択することが成功の鍵です。ここでは、最も基本的な4分割から、複雑なデザインに対応する9分割までの展開図をテキストで解説します。
必ずお客様の髪質・骨格診断(ハチ張り、絶壁など)を行い、仕上がりイメージを共有してからブロッキングに入ってください。骨格を無視した均等なブロッキングが、似合わないスタイルの原因になります。
📋 ブロッキングとカットの施術手順
カウンセリング(骨格・髪質診断)
ブロッキング(4〜9分割の選択)
カット実行(ベース→質感調整)
STEP1: カウンセリングと骨格診断
ブロッキングの前に、お客様の頭の形を触診します。特に「ハチ(頭頂部の角)」が張っているか、「後頭部(バック)」に丸みがあるか(絶壁か)は、ブロッキングの幅を決定する最重要項目です。ハチが張っているお客様に均等な4分割を行うと、サイドの毛量が減りすぎ、トップが重く残る原因になります。
STEP2: 基本の4分割(4セクションブロッキング)
すべてのカットスタイルの基本となるブロッキングです。
- ライン1: 正中線。頭頂部からネープ(襟足)まで垂直に分け、左右を均等にします。
- ライン2: イヤー・トゥ・イヤー。耳の後ろ(または真上)を通り、頭頂部で正中線と交差させます。
- 結果: 「右サイド」「左サイド」「右バック」「左バック」の4つのセクションができます。
- 用途: ワンレングスボブ、グラデーションボブのベースカットなど、全体のラインを均一に切り揃えたい場合に使用します。
STEP3: 応用の5分割・6分割(デザイン別)
4分割からさらに細分化し、デザインの精度を高めます。
- 5分割: 4分割の状態から、「フロント(前髪・顔周り)」を三角ベースなどで別に取り分けます。顔周りのデザインを独立してカットしたい場合(例:フェイスレイヤー、マッシュ)に必須です。
- 6分割: 4分割の「右バック」「左バック」を、さらに水平スライスで「ミドル」「アンダー(ネープ)」に分けます。(=サイド2+バック4=計6)。グラデーションの積み重ねや、ネープの処理をタイトにしたいショートカットで多用します。
STEP4: 複雑なスタイルに対応する9分割
ショートレイヤーやウルフカットなど、頭の丸みに合わせて細かくデザインと毛量を調整する際に使用する、最も高度なブロッキングの一つです。
分け方の一例(5分割の応用):
- セクション1: フロント(前髪)
- セクション2, 3: サイド(左右)
- セクション4: トップ(頭頂部)
- セクション5, 6: ミドル(ハチ周り〜後頭部・左右)
- セクション7, 8: アンダー(ぼんのくぼ付近・左右)
- セクション9: ネープ(襟足)
このように細かく分けることで、「トップはリフティング90度でレイヤーを入れ、ミドルは収まりを重視し、ネープはタイトに削ぐ」といった、セクションごとの緻密なカットコントロールが可能になります。
📊 ブロッキングパターン 比較チャート
| 分割数 | 主な目的 | 適したスタイル | おすすめ髪質・毛量 |
|---|---|---|---|
| 4分割 | ベースカット、左右対称の確保 | ワンレングス、ロング、ボブ | 毛量普通〜少なめ |
| 5分割 | フロントデザインの分離 | 前髪ありスタイル、フェイスレイヤー | 全般(特に顔周りのクセが強い方) |
| 6〜9分割 | 骨格補正、複雑なデザイン | ショートレイヤー、ウルフ、マッシュ | 多毛、硬毛、くせ毛(制御が必要) |
プロが実践するブロッキングの精度を高めるコツ
骨格と髪質に合わせ、ブロッキングの「幅」を調整します。教科書通りの均等割りでは、プロの仕事とは言えません。お客様一人ひとりに合わせた「似合わせ」のためのブロッキング調整が重要です。
髪質・毛量別のアプローチ
- 多毛・硬毛の場合: ブロッキングを均等に分けても、1つのセクションの毛量が多すぎると正確なカットができません。この場合は、スライス(毛束)を薄く取ることが基本です。6分割や9分割をベースに、さらに各セクションをアンダー、ミドル、オーバーに分けてカットを進めるなど、制御しやすくします。
- 軟毛・細毛の場合: ボリュームが出にくい髪質です。ネープやサイドをタイトにカットしすぎると、トップのボリューム不足が際立ってしまいます。ブロッキングの時点で、トップセクションを広めに取るなど、ボリュームを残す「設計」を行います。
- くせ毛の場合: クセが強く出るポイント(例:もみあげ、ネープ)を独立させてブロッキングすることがあります。クセを活かすのか、抑えるのかによって、そのセクションの引き出し方を変えるためです。
骨格別 似合わせのコツ
- 丸顔・ハチ張りの場合: 横幅を強調したくないため、サイドセクションの幅を狭く取ります。代わりにトップセクションを広く取り、縦のライン(高さ)を強調できるようにカットラインを設計します。
- 面長・絶壁の場合: 縦長感を緩和するため、トップセクションは狭めに取ります。逆にサイドセクション(特に耳上)を広めに取り、横のボリュームを出しやすくします。絶壁の方には、バックのミドルセクション(後頭部)のブロッキングを広く取り、ここにレイヤーやグラデーションを集中させ、丸みを作ります。
失敗しないための注意点 (NG vs OK)
ブロッキングの「ズレ」が、仕上がりの「ズレ」に直結します。カットの途中でブロッキングが崩れると、ガイド(基準)を見失い、迷いながらカットすることになります。
⚠️ 特に注意すべきは「スライスの厚み」と「ウェットの状態」です。スライスが厚すぎると、アンダーの髪とオーバーの髪で引き出す角度が変わり、正確なラインが出ません。また、濡らしムラがあると、乾いた時の収縮率が変わり、ラインがガタガタになります。
⚖️ ブロッキング NG vs OK
❌ NG例
- コームの先だけで分け目がジグザグ
- 濡らしムラがあり、乾いた部分が混在
- 骨格を無視した均等なブロッキング
- ダッカール(クリップ)で変な跡がつく
✅ OK例
- コームの根元を頭皮につけ直線で分ける
- 均一にウェット(スプレーで根元まで)
- 骨格(ハチ、絶壁)に合わせて幅を調整
- 毛流れに沿ってフラットに留める
失敗時のリカバリー方法
- 左右非対称になった場合: 焦って短い方に合わせるのはNGです。まず、もう一度正確な正中線でブロッキングし直し、左右のどのセクションがズレているか特定します。多くの場合、引き出す角度(オーバーダイレクション)のズレが原因です。長い方をドライカットで微調整します。
- セクションを間違えてカットした場合: (例:残すはずのサイドをバックと一緒に切った) 残りのセクションでリカバリーします。例えば、サイドを切り込みすぎたら、トップの髪をサイドにオーバーダイレクションさせて長さを補填するなど、他のセクションの設計を変更してバランスを取ります。
再現性UPのスタイリング指導(ブロッキングの活用)
お客様自身にも「ブロッキング」の概念を指導します。プロのように細かく分ける必要はありませんが、自宅での再現性を高めるには、ブロッキングが有効です。
私のサロンでは、特に多毛の方やレイヤースタイルの方に、「髪を乾かす時、最低でも4分割(上下・左右)に分けて乾かしてください」と指導しています。内側(ネープ)が乾かないまま表面だけ乾かすと、広がりやうねりの原因になるからです。
「まず下の髪を乾かしてから、上の髪を下ろして乾かす」というブロー時のブロッキングを教えるだけで、サロン帰りの仕上がりが格段に長持ちします。その際、N.ポリッシュオイルなどの軽いオイルを中間から毛先に馴染ませる指導も加えると効果的です。
正確なブロッキングには、テールがぶれない頑丈なカッティングコームが必須です。気になったツールは画面下部の「PR⭐️Amazonで探す」からチェックしてみてください。
よくある質問(FAQ)
ブロッキングの精度が上がれば、カットの悩みは半減します。
- Q1: ブロッキングが左右非対称になってしまいます。コツは?
- A1: 頭頂部の「正中線」と「イヤー・トゥ・イヤー」が交差する「ゴールデンポイント」を起点にすることです。そこから放射状にコームを入れる意識を持つと、頭の丸みに対応しやすくなります。コームのテール(先端)だけを使わず、コームの根元(歯の部分)をしっかり頭皮に当てて分けるのがプロの技術です。
- Q2: ダッカール(クリップ)の跡がつかない方法は?
- A2: 留めるセクションの毛流れに逆らわず、フラットに(平たく)留めることです。毛束をねじって留めたり、根元を無理に立ち上げて留めたりすると跡が残ります。ウェットの状態であれば、スライスに対して平行にダッカールを差し込むと跡がつきにくいです。
- Q3: ウルフカットの場合、最適なブロッキングは何分割ですか?
- A3: 6分割または9分割を推奨します。ウルフは「トップの動き(レイヤー)」と「ネープのくびれ」という相反する要素を同居させるスタイルです。最低でもトップ、ミドル、アンダー(ネープ)を分ける3段のブロッキングが必要です。さらにサイドやフロントを分けることで、より緻密な骨格補正が可能になります。
まとめ:正確なブロッキングこそプロ美容師の証
今回は、プロ美容師向けの「ブロッキングの基本」として、4分割から9分割までの理論と実践を解説しました。カット技術(レイヤーやグラデーション)に目が行きがちですが、その土台となるブロッキングの精度が低ければ、どんな高度な技術も活きてきません。
感覚に頼ったカットから脱却し、骨格診断に基づいた正確なブロッキングを徹底すること。それが、お客様の信頼を勝ち取り、再現性の高いスタイルを提供し続けるプロ美容師の証です。明日からのサロンワークで、ぜひコームの入れ方一つから見直してみてください。
📚 参考文献
- 日本ヘアデザイン協会 技術ガイドライン
- 美容業界誌(OCAPPA, TOMOTOMO)2024-2025年トレンド特集
- サッスーン・ベーシックカット理論
※本記事は美容師個人の経験に基づく技術情報であり、全てのお客様に当てはまるものではありません。髪質や骨格に合わせて技術を調整してください。
この記事が役立ったら、美容師仲間とシェアして技術を高め合いましょう!
