はじめに:なぜ今、pHの理解が必須なのか?
パーマ施術の成否は「pH値」の理解とコントロールにかかっています。「この髪、アルカリで攻めるべきか、酸性で守るべきか…」薬剤選定で迷う瞬間、プロの美容師なら誰でも経験がありますよね。美容師歴20年以上の「髪技屋さん」です。
特に近年は、ブリーチ毛やエイジング毛など、デリケートな髪への施術がサロンワークのスタンダードになりました。従来のアルカリパーマ一辺倒の知識だけでは、お客様の多様なニーズに応えることが難しくなっています。
この記事では、パーマの基本理論である「pH値」に焦点を当て、アルカリ性と酸性の違い、髪質やダメージレベルに応じた具体的な薬剤選定、そして失敗しないための実践的テクニックを徹底解説します。明日からのサロンワークで、薬剤選定の精度を格段に上げるための知識を共有します。
2025年パーマトレンドとpHの関係性
2025年のトレンドは「ダメージレス」と「自然な質感」がキーワードです。波巻きパーマや、作り込みすぎないニュアンスパーマ、韓国トレンドから派生したジェリーパーマのような柔らかな動きが主流となっています。
お客様の「髪を傷めたくない」というニーズは非常に高く、サロンワークでは「低ダメージ」でいかに「持続性のあるカール」を作るかが問われています。ハイトーンカラーとの両立を望む声も多いです。
ここで活躍するのが、まさに「酸性パーマ」です。従来のアルカリパーマでは難しかったハイトーンカラー毛へのアプローチや、髪本来のツヤ感を残したままのカール形成が可能になり、トレンドスタイルを支える必須技術となっています。
パーマ理論の核心「pH値」とは?
pH値は、薬剤が髪に作用する「環境」を決める最も重要な指標です。ご存知の通り、髪の毛の健康な状態(等電点)はpH 4.5~5.5の弱酸性です。パーマはこのバランスを意図的に崩し、還元剤を作用させてカールを形成します。
アルカリ性パーマ (pH 8.0以上) の特徴と役割
アルカリパーマは、薬剤の力で髪をしっかり「膨潤」させ、キューティクルを強制的に開いて還元剤(チオグリコール酸やシステアミンなど)を内部に深く浸透させます。
- メリット: パワーがあり、健康毛や剛毛、かかりにくい髪にもしっかりとしたリッジの強いカールを作ることができます。還元効率が高いため、施術時間も比較的短く済みます。
- デメリット: ⚠️ 過膨潤によるダメージが最大の懸念点です。キューティクルを開く力が強いため、間充物質の流出を招きやすいです。また、施術後に「アルカリ残留」が起こると、サロン帰り後もじわじわとダメージが進行する可能性があります。
酸性パーマ (pH 4.5-6.5) の特徴と役割
酸性パーマは、髪の等電点に近い領域で作用します。アルカリパーマとの最大の違いは「髪を膨潤させない(または最小限に抑える)」点です。
- メリット: 膨潤を最小限に抑えるため、キューティクルへの負担が少なく、ダメージレスに施術できます。特にダメージ毛やブリーチ毛、エイジング毛に適しており、髪本来のツヤと柔らかい質感を保持したままカールを形成できます。
- デメリット: 膨潤させないため薬剤の浸透力が弱く、アルカリパーマほどの強いリッジは出しにくい傾向があります。また、軟化チェックが非常に難しい(膨潤しないため)という、美容師側の技術的な難易度が高い点も挙げられます。
薬剤別(チオ・シス・GMT等)とpHの関係
薬剤の選定は「還元剤の種類」と「pH値」の組み合わせで決まります。同じ還元剤でも、どのpH領域で使われるかによって特性が変わります。
- チオグリコール酸: 主にアルカリ領域(pH 8.5~9.5)で高い還元力を発揮。しっかりかけたい時に最適です。
- システイン: 還元力はマイルド。アルカリ領域で使われますが、ダメージ毛向けとされてきました。
- システアミン: アルカリ~中性領域(pH 7.0~8.5)で活躍。チオより低ダメージで、弾力のあるカールが特徴ですが、特有の残臭があります。
- GMT / スピエラ: これらが酸性パーマの主役です。GMT(グリセリルモノチオグリコレート)やスピエラ(チオグリコール酸ブチル)は、酸性領域でも高い還元力を持つ特殊な薬剤です。GMTは中性~弱酸性、スピエラはより低いpH域でも作用します。
施術手順と薬剤選定(pHコントロールの実践)
正確な「毛髪診断」こそが、適切なpH選定のスタートラインです。ここで見立てを誤ると、どんなに良い薬剤を使っても失敗に繋がります。
必ずお客様の髪質・ダメージレベル・既往施術歴(カラー・縮毛矯正等)を診断し、仕上がりイメージを共有してから施術に入ってください。認識のズレが失敗の原因になります。
📋 pHコントロール・パーマ施術手順
カウンセリング(髪質・ダメージ・既往歴診断)
薬剤選定(pHと還元剤の決定)
施術実行(軟化・中間処理・酸化)
STEP1: カウンセリングとpH診断 (毛髪診断の重要性)
最も重要な項目です。ここで髪質(剛毛/軟毛/撥水毛/親水毛)、ダメージレベル(ロー/ミドル/ハイ)、既往施術歴(ブリーチ、縮毛矯正、カラー頻度)を徹底的に確認します。
- ウェット診断: 髪を濡らした時の弾力や、テロっとする(親水化している)部分がないかを確認します。
- ヒアリング: ⚠️ 特にブリーチ毛や縮毛矯正毛は、見た目以上に内部がダメージ(タンパク変性)しているため、安易なアルカリ施術は断裂に繋がります。過去の施術履歴は必ず深掘りしてください。
【サロン事例】 「私の経験上、お客様の『ダメージは気にならない』という自己申告と、実際の毛髪診断結果が異なることは多々あります。必ずウェット状態での弾力や、既往歴を深くヒアリングし、アルカリに耐えられる体力があるか、それとも酸性で守るべきかを見極めます。」
STEP2: 薬剤選定 (pHと還元剤の選択)
STEP1の診断に基づき、pHと還元剤を決定します。単純な「ダメージ毛=酸性」という思考停止ではなく、デザインと髪の体力に応じて使い分けます。
- 例1:健康毛でリッジの強いカール希望 → アルカリ性 (pH 8.5~9.0) + チオグリコール酸
- 例2:カラー毛(ミドルダメージ)で柔らかい質感希望 → 中性 (pH 7.0~7.5) + システアミン
- 例3:ハイダメージ毛・ブリーチ毛でカールが欲しい → 酸性 (pH 5.0~6.0) + GMT / スピエラ
ワインディング技術も重要です。スライス幅やテンションは、薬剤の浸透を助ける物理的な力となります。例えば、酸性パーマでかかりを補うためにテンションを適切にかける、などの調整が必要です。
STEP3: 施術実行 (軟化チェック、中間処理、酸化)
- 1剤塗布: ダメージレベルに合わせて塗り分け(リタッチ、毛先保護)を行います。特に酸性薬剤は粘性が低く流れやすいため、塗布技術が求められます。
- 軟化チェック:
- アルカリパーマ: ロッドに巻き付けた毛髪の弾力や、指で軽く引っ張った時の伸び具合(ビヨーンと伸びすぎない程度)で見極めます。
- 酸性パーマ: 膨潤しないため、アルカリのような明確な軟化が見えません。メーカー推奨の放置時間を基準にしつつ、テストカールで慎重に還元具合を判断します。
- 中間リンス・処理: 1剤を流す工程です。アルカリ施術の場合は、ここでアルカリ除去とpHコントロール(酸リンスなど)を行うことが、残留ダメージを防ぐ鍵となります。
- 2剤(酸化): 還元で切断したシスチン結合を再結合させます。過酸化水素(スピーディ、やや硬めの仕上がり)とブロム酸(マイルド、柔らかい仕上がり、時間がかかる)を、髪の体力やデザインに応じて使い分けます。
徹底比較!アルカリ vs 中性 vs 酸性パーマ
どれが優れているかではなく、髪質とデザインで「使い分ける」ことが重要です。それぞれの得意分野と苦手分野を把握しましょう。
📊 pH別パーマ技法 比較チャート
| 技法名 (主な還元剤) | 効果・特徴 | 注意点 | おすすめ髪質・ダメージレベル |
|---|---|---|---|
| アルカリパーマ (チオ) | リッジの強いカール、持続性高い | 過膨潤、ダメージリスク大、アルカリ残留 | 健康毛、剛毛、直毛 (ローダメージ) |
| 中性パーマ (システアミン) | 弾力のあるカール、アルカリより低ダメージ | 特有の残臭、薬剤コスト | 軟毛、カラー毛 (ミドルダメージ) |
| 酸性パーマ (GMT・スピエラ) | 低ダメージ、ツヤ感、柔らかい質感 | かかりが弱め、軟化チェック困難、技術力要 | ハイダメージ毛、ブリーチ毛、エイジング毛 |
髪質・ダメージ別アプローチ (pHの使い分け)
剛毛・健康毛 (撥水毛)
キューティクルがしっかりしており、薬剤が浸透しにくい髪質です。 アプローチ: アルカリ性パーマ(pH 8.5~9.0)でしっかりキューティクルを開き、還元剤(チオ系)を浸透させる必要があります。パワーがある分、放置時間のオーバーランには注意し、軟化チェックはこまめに行います。
軟毛・細毛 (エイジング毛含む)
アルカリが強すぎると髪が耐えられず、チリつきやコシのないカール(テロテロな質感)になりがちです。 アプローチ: 中性~弱酸性(pH 6.5~7.5)のシステアミンやGMTを使い、ハリコシを与えながら優しくかけます。ボリュームを出すための基本的な髪の切り方で、ベースカットを調整することも非常に重要です。
ダメージ毛・ブリーチ毛 (親水毛)
すでに体力が奪われ、タンパク質が流出しやすい状態です。 アプローチ: 酸性パーマ(pH 4.5~6.0)一択と考えて良いでしょう。アルカリに振ると、濡れた状態でテロテロになり、最悪の場合は断毛(ビビリ毛)します。
【失敗例と改善】 「以前、ブリーチ毛に『中性(pH 7.0)なら大丈夫だろう』とシステアミンでアプローチした結果、毛先がチリついた苦い経験があります。この経験から、⚠️ ブリーチ毛には必ずpH 6.0以下の酸性GMTを使い、前処理・中間処理で徹底的に補修材(CMCやケラチン)を補充する手法に変更しました。」
酸性パーマに使うGMTやスピエラ系の薬剤、またはアルカリ除去に役立つヘマチン配合のケア剤は、画面下部の「PR⭐️Amazonで探す」からチェックできます。
再現性UPのスタイリング指導 (pHとホームケア)
施術後の「アルカリ残留」除去と保湿が、自宅での再現性を左右します。お客様への説明が非常に重要です。
- pHの安定化: 「パーマ直後の髪はアルカリ性に傾いて不安定(キューティクルが開きやすい状態)です。ご自宅でも24時間はシャンプーを控えていただき、その後は弱酸性のケア剤を使ってください」と伝えます。サロンでのヘマチンやレブリン酸を使った後処理も効果的です。
- 乾かし方: 「特にデジタルパーマや酸性パーマは、乾かすとカールが戻る特性があります。濡れている時と乾いた時のカールの差を説明し、指でねじりながら乾かすよう指導します。」
- スタイリング剤: 質感を高めるため、N.ポリッシュオイルのようなツヤ系オイルや、ミルボン ジェミールフランのような保湿系ミルクがおすすめです。pHコントロールされたケア剤と併用することで、カールの持続性が高まります。
プロのコツ・NG集 (pHコントロールの失敗とリカバリー)
失敗の多くは「診断ミス」と「アルカリの過剰作用」から起こります。NG例とOK例を対比して確認しましょう。
⚖️ pHコントロール NG vs OK
❌ NG例
- 既往歴を聞かずに高pH薬剤を使用
- ブリーチ毛にアルカリ薬剤でアプローチ
- 酸性パーマで軟化チェックを怠り放置しすぎ
- アルカリパーマ後のアルカリ除去不足
✅ OK例
- ウェット診断で体力を確認しpHを選定
- ブリーチ毛には酸性薬剤と処理剤を使用
- 酸性パーマはテストカールで還元をチェック
- 中間・後処理でpHを等電点に戻す
失敗時のリカバリー方法
- かからなかった場合: 原因が還元不足(pHが低すぎた、放置時間不足)か、髪の体力不足かを診断。還元不足なら、pHを少し上げた薬剤でかけ直します。体力不足(特に酸性パーマ)なら、それ以上の施術は諦め、高濃度トリートメント施術に切り替えます。
- かかりすぎ・チリチリ(過膨潤・ビビリ毛): ⚠️ 最も深刻な失敗です。アルカリや還元剤が効きすぎた状態。直ちに酸リンスやヘマチンでアルカリ除去とシスチン結合の「架橋」を行います。軽度ならアイロンで伸ばす「パーマ落とし」も可能ですが、基本は高濃度トリートメントで質感を補修し、お客様と相談の上でダメージ部分のカットを提案します。
- ムラになった場合: 薬剤塗布ムラや、既往歴(カラーや縮毛矯正)の境目での反応差が原因。かかっていない部分(新生部など)にのみpHを調整した薬剤を再塗布し、慎重に時間を置きます。
よくある質問(FAQ)
pHに関するプロの疑問を解消し、明日からのサロンワークに活かしましょう。
まとめ
プロ美容師として、パーマ剤のpH値を深く理解することは、お客様の多様なニーズに応えるための必須知識です。健康毛からブリーチ毛まで、髪の状態は一人ひとり全く違います。
2025年も続く低ダメージ志向の中、アルカリ性パーマのパワーと、酸性パーマの優しさを、的確な髪質診断に基づいて使い分けることが、プロフェッショナルなパーマ技術の鍵となります。
この記事で解説した「pHコントロール」の理論と実践テクニックを、明日からのサロンワークにぜひ役立ててください。
📚 参考文献
- 日本パーマネントウェーブ液工業組合 公式技術情報
- 美容業界誌(例:新美容出版, 髪書房)
- 各パーマ薬剤メーカー 公式技術資料(酸性パーマ・GMT/スピエラ関連)
※本記事は美容師個人の経験に基づく技術情報であり、全てのお客様に当てはまるものではありません。髪質やダメージレベルに合わせて技術を調整してください。
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