はじめに:複数回ブリーチ施術の難易度と重要性
複数回ブリーチ施術の成否は「毛髪の臨界点」の見極めにかかっています。こんにちは、美容師歴20年以上の髪技屋さんです。ハイトーンカラーの需要が高まる中、お客様の「もっと白くしたい」という要望と、毛髪のダメージ限界との間で悩む美容師さんは多いのではないでしょうか。特にブリーチカラーは、一度「臨界点」を超えると修復が極めて困難になります。この記事では、プロ美容師が知るべき複数回ブリーチのリスク管理と、安全な施術基準について徹底的に解説します。
2025年ハイトーン需要と「ブリーチの臨界点」という課題
2025年もハイトーンカラーの人気は継続し、より高度な技術が求められます。ペールトーンのラベンダーや、透明感のあるシルバーアッシュなど、高明度ベースが必須のデザインがトレンドの中心です。私のサロンでも、ブリーチを伴う透明感カラーのオーダーは全体の約4割を占めており、その多くが2回以上のブリーチを希望されます。
しかし、この需要の高まりと同時に、「毛髪の臨界点」を超えたハイダメージ毛に遭遇するケースも増えています。お客様は「あと1回ブリーチすれば白くなる」と安易に考えがちですが、私たちプロは、毛髪が物理的に耐えられなくなる限界点を知っています。この限界点をいかに正確に診断し、お客様に説明し、安全な範囲で施術するかが、プロとしての信頼を左右する重要なスキルとなっています。
科学的に解説!毛髪が耐えられなくなる「臨界点」とは?
毛髪の「臨界点」とは、毛髪内部のタンパク質(ケラチン)が不可逆的なダメージを受け、構造を維持できなくなる限界点です。ブリーチは、メラニン色素を分解すると同時に、毛髪の主成分であるタンパク質や、間充物質であるCMC(細胞膜複合体)をも酸化させ、流出させます。特に複数回のブリーチは、毛髪内部の「非晶質ケラチン(マトリックス)」を著しく減少させます。
この非晶質ケラチンが失われすぎると、毛髪は弾力性を失い、濡れるとゴムのように伸び、乾かすと切れる「ビビリ毛」と呼ばれる状態になります。これが、私たちが「臨界点を超えた」と呼ぶ状態です。一度この状態になると、現在の毛髪科学では元の健康な状態に戻すことはできません。私たちの仕事は、この臨界点の手前で施術を止める、あるいは臨界点を引き上げる(プレックス剤などで保護する)ことにあるのです。
安全な複数回ブリーチ施術の基準と手順
安全なブリーチ施術は、正確な「毛髪診断」と「薬剤コントロール」によってのみ実現可能です。回数ありきではなく、現在の毛髪の体力を見極めることが最優先です。ここでは、臨界点を超えないための具体的な手順を解説します。
施術48時間前にパッチテスト必須。アレルギー反応が出た場合は施術を中止し、医師に相談してください。
📋 安全な複数回ブリーチ施術手順
毛髪診断と履歴確認(臨界点の予測)
プレックス剤と低オキシでの薬剤調合
慎重な塗布と頻繁な軟化チェック
STEP1: 臨界点を見極める「毛髪診断と履歴確認」
最も重要なステップです。以下の点を徹底的に確認します。
- 過去1~2年の施術履歴: 特に縮毛矯正、デジタルパーマ、黒染めの履歴は、ブリーチ施術の成否を分ける最大の要因です。これらの履歴がある場合、薬剤反応が予測不能になり、断毛リスクが飛躍的に高まります。
- 視診と触診: 乾いた状態での硬さ、濡らした状態での弾力(伸び具合)を確認します。濡らした時にテロンとした感触がある場合、すでに臨界点に近い可能性があります。
- テストストランド: 必須です。バックの目立たない部分で少量ブリーチし、抜け具合とダメージの進行度をテストします。ここで軟化が早すぎる場合は、施術中止も視野に入れます。
STEP2: ダメージを抑える「薬剤選定と調合」
現代の複数回ブリーチにおいて、プレックス系薬剤(ファイバープレックス、オラプレックス等)の使用は「オプション」ではなく「必須」です。これらは毛髪内部の結合を保護・強化し、臨界点を引き上げる効果が期待できます。
オキシ濃度は、毛髪の体力に合わせて慎重に選びます。バージン毛の1回目であっても6%を上限とし、2回目以降や既染部には3%や1.5%を使い分けるのが鉄則です。パワーでリフトするのではなく、低オキシで時間をかけて優しくリフトさせる意識が重要です。
使用する薬剤は画面下部の「PR⭐️Amazonで探す」からチェックできます。特にシュワルツコフ ファイバープレックスは、私のサロンでも必須アイテムです。
📊 ブリーチ施術の調合レシピ例
| ベース状態 | 調合レシピ(ブリーチ) | 放置時間 | 施術時間(目安) |
|---|---|---|---|
| 6レベル(健康なバージン毛) 1stブリーチ | ファイバープレックス パウダー 50g + OXY 6% 100g (1:2) (ミディアム目安、仕上がり14-15レベル) | 20~30分 | 約150分 |
| 15レベル(ブリーチ1回履歴) 2ndブリーチ | ファイバープレックス パウダー 40g + OXY 3% 80g (1:2) (ミディアム目安、仕上がり17-18レベル) | 15~25分 | 約120分 |
| 18レベル(ブリーチ2回履歴) オンカラー(ペール系) | イルミナ スターダスト10 40g + OXY 1.5% 80g (1:2) (ミディアム目安、仕上がり10レベル) | 10~15分 | (ブリーチ含め) 約240分 |
STEP3: 限界を超えない「塗布技術と放置時間」
薬剤を塗布した後が本当の勝負です。特に複数回ブリーチでは「放置して待つ」のではなく「放置しながら観察する」姿勢が不可欠です。
- リタッチと既染部の塗り分け: 必須です。新生部(健康毛)と既染部(ダメージ毛)では、薬剤のパワー(オキシ濃度)や放置時間を変える必要があります。特にオーバーラップ(薬剤の重複)は断毛の最大の原因です。
- 頻繁な軟化チェック: 5~10分おきにコームでスライスを取り、毛髪の弾力をチェックします。少しでも「テロン」とした感触(軟化)が見られたら、その部分の臨界点が近いサインです。すぐに薬剤をスプレイヤーで乳化させ、流す判断をします。
- ゼロテク: 頭皮への刺激を避けるため、ブリーチ剤は頭皮に付けない「ゼロテクニック」を推奨します。頭皮トラブルは、その後のカラー施術にも影響します。
臨界点を越えないためのプロの技術とNG行動
臨界点を超える事故の多くは、技術的なミスよりも「診断ミス」と「過信」から起こります。お客様の要望に応えたい一心で「あと1回」の無理を通すことが、最悪の結果を招きます。
顧客の「無理」に応えないカウンセリング術
お客様が「今日中に白くしたい」と言っても、毛髪診断の結果、臨界点を超えると判断した場合は、勇気を持って「NO」と言うべきです。
その際の伝え方が重要です。「できません」と突き放すのではなく、「今の髪の状態でブリーチを重ねると、確実に切れてしまい、ご希望のデザインが維持できなくなります。今日はまず18レベルまでリフトさせ、2ヶ月後に髪の体力を回復させてから次のステップに進みませんか?」と、代替案と長期的なプランを提示します。専門家として「なぜ危険なのか」を説明し、未来のリスクを共有することが信頼に繋がります。
髪質・履歴別アプローチ(ダメージ毛 vs バージン毛)
- 細毛・ダメージ毛(特に縮毛矯正履歴あり): 最も危険なケースです。ブリーチ自体を推奨しない場合もあります。行う場合は、プレックス剤必須の上でオキシ3%、または1.5%でテストし、リフト力よりも安全性を最優先します。縮毛矯正履歴部は、ブリーチ剤が触れた瞬間に断毛するリスクを常想定します。
- 太毛・健康なバージン毛: 比較的体力がありますが、油断は禁物です。1回目は6%でしっかりリフトさせ、2回目以降は状態を見て3%~6%で調整します。太毛はリフトしにくい反面、薬剤の浸透ムラも出やすいため、塗布量とスピードが重要です。
⚖️ 複数回ブリーチ NG vs OK
❌ NG行動
- 履歴確認を怠り、縮毛矯正毛に6%を塗布
- 「あと5分」と放置時間を延長し軟化させる
- ⚠️ 2回目ブリーチで1回目と同じ6%オキシを使用
- オーバーラップを気にせず雑に塗布する
✅ OK行動
- テストストランドで安全マージンを確認
- 2回目は3%オキシに切り替え、状態を監視
- プレックス剤(ファイバープレックス等)を併用
- 軟化を感知し、即座に薬剤を流す判断をする
万が一の失敗リカバリー術(ビビリ毛・断毛)
万が一、臨界点を超えてしまった場合、まずはお客様への誠実な謝罪と現状説明が最優先です。その上で、以下の応急処置を行います。
- ビビリ毛(過軟化)が発生した場合: 直ちにブリーチ剤を流します。シャンプー台で、ヘマチン(残留アルカリ除去)や酸リンス(pH調整)で髪を引き締めます。高濃度のケラチンPPTやCMCを補充できるシステムトリートメント(例: ミルボン オージュアのフィルメロウ等)で、疑似的に内部補強を試みます。ただし、これは「治す」ものではなく、一時的に強度を持たせる処置です。
- 断毛が始まった場合: 深刻な状態です。物理的なテンション(コーミング、タオルドライ)を一切避け、優しく水分を押し出すように拭き取ります。これ以上の化学施術は不可能です。お客様には、該当部分をカットする必要があるかもしれないことを誠実に伝えます。
最も重要なリカバリーは、今後のダメージケアプランを提示することです。サロンでの集中トリートメントと、自宅での低刺激シャンプー、アウトバストリートメントの使用を徹底してもらうよう指導します。
薬剤比較:なぜプレックス系薬剤が必須なのか?
プレックス系薬剤は、ブリーチ施術の「保険」であり「攻撃力(リフト力)」と「防御力(ダメージ耐性)」を両立させる鍵です。従来のブリーチは、リフト力とダメージが比例関係にありました。しかし、シュワルツコフのファイバープレックスに代表されるプレックス剤(ボンドテクノロジー)は、ブリーチ剤に混合することで毛髪内部の結合(ジスルフィド結合)を酸化ダメージから保護し、新たな結合をサポートします。
私の経験上、プレックス剤を使用した場合と使用しない場合では、2回目、3回目のブリーチ後の毛髪の体力(弾力)が明らかに違います。特に「臨界点」が近いデリケートな毛髪に対し、あと半歩だけリフトさせたい、というギリギリの攻防において、プレックス剤の有無が施術の成否を分けます。コストは上がりますが、断毛リスクと顧客の信頼を失うコストに比べれば、導入しない理由はありません。
プロ美容師が抱える「複数回ブリーチ」のよくある質問(FAQ)
複数回ブリーチに関する質問は、お客様からも同業者からも多く寄せられます。ここでは、特に多い3つの質問にお答えします。
Q1. 結局、ブリーチは何回まで安全にできますか?
A. 「回数」に安全な上限はありません。答えは「その髪の体力(臨界点)による」です。 健康なバージン毛なら3回可能な場合もあれば、縮毛矯正履歴のある髪は1回でも危険な場合があります。私の経験では、安全マージンを見て「1日2回まで」を基準にすることが多いですが、これも毛髪診断次第です。回数ではなく、1回ごとの毛髪の状態を見て次を判断するのがプロの仕事です。
Q2. 臨界点を超えたビビリ毛はトリートメントで治せますか?
A. いいえ、治りません(元の健康な状態には戻りません)。 臨界点を超えた髪は、内部のタンパク質が流出し、構造が崩壊しています。システムトリートメントは、失われた成分を「補充」し、疑似キューティクルで「蓋」をすることで、一時的に手触りや強度を改善させる「応急処置」です。根本的なヘアケアは、ダメージ部分をカットし、新しい健康毛を育てることしかありません。
Q3. 安全なリタッチブリーチの方法を教えてください。
A. 既染部への「オーバーラップ」を絶対に避けることです。 新生部(黒い根元)にのみ、的確に薬剤(例: 6%オキシ+プレックス剤)を塗布します。既染部(すでに明るい部分)は、薬剤が少し付着するだけで臨界点を超え、断毛するリスクがあります。塗布技術(ゼロテク)と、流す直前のコーミング(薬剤を伸ばしすぎない)に細心の注意が必要です。既染部の明るさが足りない場合は、新生部を流した後に、別途3%や1.5%の低オキシで塗り分けるのが安全です。
まとめ:安全なブリーチ技術で顧客満足度を高める
複数回ブリーチのリスク管理は、お客様の毛髪を「臨界点」から守るプロの責務です。2025年も続くハイトーン需要に応えるためには、ファイバープレックスなどのプレックス剤を標準装備とし、低オキシ(3%や1.5%)を使いこなす知識と技術が不可欠です。ブリーチは「回数」ではなく「毛髪の体力」で行うもの。正確な診断力と、時には「待つ」ことを提案できるカウンセリング力こそが、お客様の信頼を勝ち取る鍵となります。
安全なヘアカラーレシピとリスク管理を徹底し、お客様の「なりたい」を安全に叶えるプロフェッショナルを目指しましょう。
📚 参考文献
- シュワルツコフ プロフェッショナル公式サイト(ファイバープレックス技術資料)
- ミルボン公式サイト(オルディーブ 製品情報)
- ウエラ プロフェッショナル公式サイト(イルミナカラー テクニカルガイド)
- 日本ヘアカラー協会(JHCA)技術ガイドライン
※本記事はプロ美容師向けの技術情報であり、セルフ施術を推奨するものではありません。アレルギーや症状が気になる場合は医師に相談してください。
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