はじめに:ブリーチ客の最大の悩み「色落ち」を制する技術
ブリーチ施術の成否は、オンカラー後の「色持ちケア」で決まります。美容師歴20年以上の「髪技屋さん」です。サロンワークにおいて、ハイトーンカラーやブリーチカラーの需要は年々高まっていますよね。しかし、お客様の共通の悩みは「キレイな色が2週間で抜けてしまう」こと。この「色落ち」問題は、お客様の満足度、ひいてはリピート率に直結します。この記事では、「キューティクル復元」という言葉の真意を紐解きながら、色落ちを理論的に遅延させる「キューティクルケア」と「pHコントロール」の実践技術を徹底解説します。
2025年ハイトーンカラーの課題:「ダメージ」から「色持ち」へ
2025年の顧客ニーズは「ダメージレス」から「高耐久の色持ち」へとシフトしています。数年前までは「ケアブリーチ」という言葉だけで差別化できましたが、今やプレックス剤の使用はスタンダード。お客様は「ダメージが少ない」のは当然として、その上で「キレイな色がどれだけ続くか」を非常にシビアに見ています。私のサロンでも、ブリーチをされるお客様の約7割が「色持ち」に関する相談や、過去の「すぐ色が抜けた」という不満を口にされます。技術の焦点は、ブリーチダメージの「修復」から、染料をいかに「定着」させ「流出させないか」という「染料定着理論」へと移っているのです。
理論解説:なぜブリーチ毛は色落ちが早い? キューティクルとpHの密接な関係
ブリーチ毛の色落ちは、キューティクルの損傷とアルカリ残留による「染料の流出」が原因です。まず大前提として、「キューティクルの完全な復元」は現代の毛髪科学では不可能です。私たちプロ美容師ができるのは、損傷したキューティクルを「補修」し、毛髪のpHをコントロールして「収斂(引き締める)」ことです。これが色落ち遅延の核心です。
要因1:キューティクルの物理的損傷(染料の流出ルート)
ブリーチは、pH 10〜11という強アルカリの力でキューティクルをこじ開け、メラニン色素を分解します。この過程でキューティクルは剥がれたり、欠けたりします。結果、髪は「多孔質化(ポーラスヘア)」し、スポンジのように穴だらけの状態に。オンカラーで染料を入れても、その穴からシャンプーのたびに染料が流れ出てしまうのです。
要因2:残留アルカリとpHの不安定化(キューティクルが開きっぱなし)
⚠️ これが色落ちの最大の原因です。ブリーチやカラー施術後、髪内部にはアルカリ剤が残留します。この「残留アルカリ」を適切に除去しないと、髪は施術後もアルカリ性に傾いたまま(pH 7〜9)。健康な髪のpH(弱酸性 pH 4.5〜5.5)とは程遠い状態です。アルカリ性の状態ではキューティクルが開きっぱなしになり、せっかく入れた染料が日々流出し続けます。さらに、残留アルカリは内部のタンパク質をジワジワと破壊し続け、ダメージを進行させます。
要因3:疎水性から親水性への変化
健康な髪は「疎水性」(水を弾く)で、内部が守られています。しかし、ブリーチでダメージを受けると「親水性」(水を吸いやすい)に変化します。親水性の髪は、シャンプー時に水分を過剰に吸い込み、膨潤します。その際、内部の染料が水分と一緒に外へ流れ出てしまうのです。
- 内部補強: プレックス剤で毛髪強度を上げ、染料が留まる土台を作る。
- アルカリ除去 & pHコントロール: 残留アルカリを徹底的に除去し、酸性に戻してキューティクルを閉じる。(最重要)
- 疎水化処理: 髪を水を弾く状態に戻し、染料の流出を防ぐ。
色落ちを遅延させる「キューティクルケア施術」全手順
プレックス剤、低アルカリカラー、徹底した後処理(アルカリ除去とpH調整)が鍵です。「キューティクルを復元させる」のではなく、「キューティクルをケアし、閉じる」ための具体的な施術フローを解説します。
カラー施術の48時間前には、必ずパッチテスト(皮膚アレルギー試験)を実施してください。アレルギー反応が出た場合は施術を中止し、医師の診断を受けてください。
📋 色落ち遅延のための施術手順
診断 & プレックス剤配合ブリーチ
低アルカリ/酸性カラーでオンカラー
徹底した後処理(アルカリ除去 & pH調整)
STEP1:診断とブリーチ(内部補強)
毛髪診断でダメージレベルと履歴を正確に把握します。ブリーチ剤には、必ずプレックス剤(例: シュワルツコフ ファイバープレックス No.1 や ミルボン マイフォース No.1)を規定量ミックスします。これが、毛髪内部のS-S結合(シスチン結合)を守り、染料が定着する土台を維持する第一防衛ラインです。オキシは6%を基本とし、過度なリフトを狙わず、必要なら2回に分けるなどダメージを最小限に抑えます。
STEP2:オンカラー(低ダメージ塗布)
ブリーチ流洗後、バッファー剤(中間処理剤)で一度pHを安定させるのが理想です。オンカラー剤は、さらなるアルカリダメージを避けるため、低アルカリタイプ(例: ミルボン オルディーブ アディクシーの低アルカリライン)や、ダメージゼロの酸性カラー(例: ホーユー グラマージュ)を選定します。オキシは3%または1.5%を使用し、アルカリの暴走を防ぎます。
STEP3:後処理(最重要:染料定着とキューティクル収斂)
ここが色持ちの最大の分岐点です。シャンプー台でのこの一手間が、お客様の1ヶ月後の満足度を決めます。
- 乳化: シャンプー台でしっかり乳化し、染料を均一に定着させます。
- アルカリ除去: ヘマチン配合の処理剤や、専用のアルカリキャンセラー(除去剤)を使用し、髪と頭皮に残った残留アルカリを徹底的に中和・除去します。
- pHコントロール(酸収斂): 酸リンスやアシッド(酸性)トリートメントを使用し、髪のpHを弱酸性(pH 4.5〜5.5)に急速に戻します。これによりキューティクルが物理的にギュッと引き締まり、染料を毛髪内部に閉じ込めます。
- 疎水化処理: 最後にシステムトリートメント(例: ミルボン グランドリンケージなど)で疑似キューティクルを形成し、髪の表面を疎水性(水を弾く状態)に戻し、染料流出と外部ダメージを防ぎます。
📊 ブリーチ毛の色持ち向上ケア施術レシピ
| ベース状態 | 施術内容(薬剤例) | 放置時間 | 施術時間(目安) |
|---|---|---|---|
| 18レベル(ハイダメージ毛) | [ブリーチ] ファイバープレックス 7% + 6%オキシ [オンカラー] ウエラ イルミナ 10/オーキッド 40g + 1.5%オキシ 80g [後処理] ヘマチン処理 → 酸リンス → 疎水化TR (仕上がり10レベル) | オンカラー10分 | 約180分 |
| 16レベル(標準ブリーチ毛) | [ブリーチ] マイフォース 5% + 6%オキシ [オンカラー] オルディーブ アディクシー 9/スモーキートパーズ 50g + 3%オキシ 50g [後処理] アルカリ除去剤 → pHコントロールTR (仕上がり9レベル) | オンカラー15分 | 約150分 |
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ダメージレベル別:ケア施術の最適化アプローチ
ダメージレベルを見極め、プレックス剤の濃度と後処理の強度を変える必要があります。全てのブリーチ毛に同じ施術をしていては、プロとは言えません。
ハイダメージ毛(18レベル以上・既ブリーチ毛)
プレックス剤は規定量MAXで投入します。オンカラーは酸性カラーまたは1.5%オキシが鉄則。⚠️ このレベルの髪にアルカリカラー(3%以上)を使うと、残った体力を削り切り、色落ちどころか断毛リスクが非常に高くなります。後処理は「疎水化」と「被膜形成」を最重要視し、物理的に染料を閉じ込めます。
ミドルダメージ毛(16レベル・初ブリーチ毛)
最も色落ちしやすい反面、後処理の効果が最も出やすいゾーンです。プレックス剤で内部を補強しつつ、オンカラーは3%オキシでアルカリ量を抑えつつ発色させます。そして「アルカリ除去」と「pHコントロール」を徹底的に行うことで、他のサロンとの色持ちの差を圧倒的に見せつけることができます。
顧客への説明(顧客対応のコツ)
お客様には「キューティクルは元に戻りませんが、今日の施術で強力に補修し、キューティクルを閉じたので、通常より格段に色持ちが良くなります」と、理論に基づいた正確な説明を心がけましょう。また、色持ちはサロンケアとホームケアの両輪です。適切なヘアケア(カラーシャンプーの使用、アイロン温度など)を指導することもプロの重要な役割です。
徹底比較:色持ちを変える「プレックス剤」と「後処理剤」の選び方
薬剤の特性を理解し、ブリーチ力とケア効果のバランスで選定します。私の経験上、薬剤の選定も色持ちに影響します。
📊 主要ケア薬剤 比較表
| 薬剤タイプ | 主要製品例 | 特徴(効果) | 適した施術 |
|---|---|---|---|
| プレックス剤 (補強) | ファイバープレックス (シュワルツコフ) | リフト力を維持しつつ、毛髪内部を強力に補強。ハリコシが出る。 | 万能型。特に軟毛〜普通毛のブリーチ。 |
| プレックス剤 (補強) | ミルボン マイフォース | 日本人の髪質に合わせた設計。質感と補強のバランスが良い。 | 継続的なブリーチ毛、質感重視の場合。 |
| 後処理 (アルカリ除去) | ヘマチン (原料系) | 残留アルカリ除去、過酸化水素除去、消臭効果。ハリコシUP。 | 全てのアルカリカラー・ブリーチ施術後。 |
| 後処理 (pH調整) | アシッド(酸リンス)系処理剤 | クエン酸やリンゴ酸などでpHを急速に下げ、キューティクルを収斂。 | アルカリ除去後の必須工程。 |
プロの技とNG例:お客様の満足度を左右する「色持ち」テクニック
色落ちを遅らせる鍵は、ブリーチやオンカラーの「中間処理」と「後処理」にあります。ここでプロとアマチュアの差が出ます。
⚖️ 色持ち技術 NG vs OK
❌ NG例
- ブリーチ流して即オンカラー(中間処理なし)
- ハイダメージ毛に6%オキシでオンカラー
- 後処理がシャンプーと市販TRのみ
- 残留アルカリを放置して帰宅させる
✅ OK例
- ブリーチ後にバッファー剤(中間処理)でpH安定
- 1.5%~3%オキシでオンカラーしアルカリダメージ抑制
- ヘマチン等でアルカリ除去を徹底
- 酸リンスでキューティクルを引き締める
失敗時のリカバリー方法
ケース1:オンカラーが沈み込みすぎた
ブリーチ毛は薬剤を過剰に吸い込み、狙ったより暗く(深く)入りすぎることがあります。軽度なら、シャンプー台で炭酸泉やアルカリ水を少量かけて乳化すると、1レベル程浮く(明るくなる)ことがあります。重度に沈んだ場合は、脱染剤(アシッド系)で染料だけを優しく削り取ります。ブリーチでのリセットは最終手段です。
ケース2:お客様から「色落ちが異常に早かった」と連絡が来た
20年の経験上、この原因はほぼ「アルカリ残留」か「キューティクルの開きっぱなし」、つまり後処理の不足です。次回来店時、オンカラーはせず、「酸性カラー」での色味補充と、「徹底した後処理(pHコントロールと疎水化TR)」を無償で行うべきです。「髪の体力を戻しながら色を入れ直します」と誠実に対応することで、逆に信頼を得られるケースもあります。
よくある質問(FAQ)
お客様の疑問に理論的に答えることが、プロとしての信頼に繋がります。
Q1. 結局「キューティクル復元」はできないの?
A1. はい、一度剥がれたり損傷したキューティクルは元に戻りません(復元不可)。しかし、プロ用のトリートメントで毛髪内部を「補強」し、キューティクルの隙間を埋めて疑似的に「保護膜」を作ることは可能です。さらに、酸の力でキューティクルを「引き締める」ことができます。この「補強・保護・収斂」が色持ちに直結します。
Q2. プレックス剤を使えば色落ちは防げますか?
A2. プレックス剤は主に「ダメージ予防(内部補強)」が目的で、髪の体力を温存するものです。色落ちを直接防ぐ(染料の流出を止める)のは「後処理(アルカリ除去とpH調整)」の役割です。例えるなら、プレックス剤が「家の柱を強くする」工事、後処理が「窓やドアを閉める」戸締りです。両方行うことで最大の効果が得られます。
Q3. 酸性カラーでオンカラーするデメリットは?
A3. デメリットは、アルカリカラーに比べて発色の鮮やかさやリフト力(明るくする力)がない点です。ベースのブリーチレベルがそのまま仕上がりの明るさになります。メリットは、キューティクルを全く傷つけず、むしろ引き締める効果があるため、ダメージケアと色入れを同時に行える点です。
Q4. 色持ちを良くするホームケアで一番大事なことは?
A4. 洗浄力の優しいシャンプー(アミノ酸系やカラー専用)を使うことです。市販の高級アルコール系シャンプーは洗浄力が強く、キューティクルを開かせ、染料を一気に流出させます。また、お風呂上がりにすぐ乾かし、濡れたまま放置しないことも非常に重要です。
まとめ:色持ち技術を武器に、お客様の信頼を掴む
ブリーチ後の色落ちを遅延させる技術は、デザイン力と同じくらいお客様の満足度に直結します。「キューティクル復元」といった曖昧な言葉に頼らず、「内部補強(プレックス剤)」「アルカリ除去(ヘマチン等)」「pHコントロール(酸リンス)」という理論に基づいた施術こそが、プロの仕事です。
色落ちまでをデザインと捉え、徹底した後処理を行うこと。これが、2025年以降のハイトーンカラー時代を生き抜く美容師の必須スキルだと、私は確信しています。この記事が、あなたのサロンワークのヒントになれば幸いです。
📚 参考文献
- ウエラ プロフェッショナル公式サイト(イルミナカラー製品情報)
- ミルボン公式サイト(オルディーブ、マイフォース製品情報)
- シュワルツコフ プロフェッショナル公式サイト(ファイバープレックス製品情報)
- 日本ヘアカラー協会(JHCA)技術ガイドライン
※本記事はプロの美容師向け技術情報であり、セルフカラーを推奨するものではありません。アレルギーや症状が気になる場合は医師に相談してください。
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