はじめに:なぜ今、美容師がメラニン色素を再学習すべきなのか
メラニン色素の構造理解は、ブリーチ施術の成否と透明感カラーの再現性を左右する最大の鍵です。こんにちは、美容師歴20年以上の髪技屋さんです。サロンワークで「なぜか赤みが消えない」「ブリーチムラができてしまった」という経験は、誰しもあると思います。その原因の多くは、お客様の髪に存在する2種類のメラニン色素、「ユーメラニン」と「フェオメラニン」の特性を正確に把握していないことにあります。
特に近年の透明感カラーやハイトーンカラーの流行により、ブリーチ技術は必須となりました。この記事では、プロ美容師として絶対に押さえておくべきメラニン色素の脱色順序と、それを踏まえた実践的な施術テクニックを徹底解説します。
メラニン色素とは? ユーメラニンとフェオメラニンの決定的違い
お客様の髪色は、主に2種類のメラニン色素の「量」と「バランス」で決定されています。この2つの色素の特性を理解することが、カラーコントロールの第一歩です。日本人を含むアジア人の髪は、一般的に両方のメラニンを多く含んでいますが、その比率には個人差があります。
1. ユーメラニン(Eumelanin)
- 色: 黒褐色系
- 形状: 大きな粒子状
- 特徴: ブリーチ剤(アルカリ+過酸化水素)によって比較的分解されやすい性質を持ちます。
- 役割: 髪の「暗さ」「濃さ」を主に決定します。ユーメラニンが多いほど、髪は黒く見えます。
2. フェオメラニン(Pheomelanin)
- 色: 黄赤色系
- 形状: 小さな粒子状で、コルテックス内に拡散して存在
- 特徴: ブリーチ剤に対して非常に強い耐性があり、分解されにくいのが最大の特徴です。
- 役割: 髪の「赤み」「黄み」を主に決定します。これが、日本人の髪をブリーチした際に赤みやオレンジみが残りやすい最大の理由です。
サロンワークにおいて重要なのは、「ユーメラニンは削りやすいが、フェオメラニンはしぶとく残る」という事実です。この特性の違いが、ブリーチの進行と共にアンダートーンが変化していく「脱色順序」を生み出します。
なぜ赤み・黄みが残る? メラニンの脱色順序(ブリーチプロセス)
ブリーチ施術とは、分解しやすいユーメラニンから先に破壊し、残ったフェオメラニンを徐々に削っていく作業です。このプロセスを理解していないと、目的の明度に達しても不要なアンダートーンが残り、オンカラーが濁る原因となります。
髪の毛をブリーチ剤で脱色していくと、アンダートーンは以下のように変化していきます。
🎯 メラニン色素の脱色順序チャート
- Lv 4-5 (黒髪・暗褐色): ユーメラニンが主体。
- Lv 6-7 (褐色): ユーメラニンが分解され始め、フェオメラニンが見え始める。
- Lv 8-9 (赤褐色): ユーメラニンがかなり減少し、フェオメラニンの「赤み」が強く現れる。
- Lv 10-11 (赤みのオレンジ): 多くのユーメラニンが消失。
- Lv 12-13 (オレンジ): フェオメラニンが主体となる。
- Lv 14-15 (黄みのオレンジ): フェオメラニンが削れ始める。
- Lv 16-17 (イエロー): フェオメラニンの赤色色素が分解され、「黄み」が強く残る。
- Lv 18-19 (ペールイエロー): 残留色素がかなり少なくなる。
- Lv 20 (ホワイトイエロー): ほぼメラニンが分解された状態。
このチャートから分かる通り、14レベルあたりまではオレンジみ、17レベルあたりまでは黄みが必ず残ります。お客様が希望する仕上がりが10レベルの「アッシュベージュ」であれば、アンダーは13~14レベル(オレンジ~黄みのオレンジ)までリフトアップする必要があります。この時、残留しているフェオメラニン(オレンジ)をいかに正確に補色で打ち消すかが、プロの腕の見せ所となります。
私の経験上、多くの中級美容師が失敗するのは、10レベルの仕上がりを目指すのに10レベルまでしかブリーチしないケースです。これではユーメラニンが削れただけでフェオメラニンの赤みが強く残り、アッシュ(青)を乗せても緑がかった暗い色に沈んでしまいます。
アンダーレベル別|フェオメラニン攻略の施術手順と調合レシピ
残留するフェオメラニン(赤み・黄み)を正確に予測し、補色でコントロールすることが施術成功の鍵です。ここでは、ブリーチ後のアンダーレベル別に、残留メラニンをどう攻略するかを具体的な手順と調合レシピで解説します。
ヘアカラー施術は、アレルギー(ジアミン等)を引き起こす可能性があります。施術の48時間前には、必ずパッチテスト(皮膚アレルギー試験)を実施してください。異常が確認された場合は施術を中止し、専門医の診断を受けてください。
📋 フェオメラニン攻略の施術3ステップ
アンダーレベル診断と目標設定
ブリーチ施術(メラニン除去)
補色を使ったオンカラー(色素補正)
STEP1: アンダートーンの正確な診断
ブリーチ前の髪の状態(バージン毛か、既染毛か、ダメージレベル)を把握します。既染毛の場合、残留している人工色素も考慮に入れる必要がありますが、基本はメラニンの脱色順序に沿って考えます。
STEP2: ブリーチ施術
目的の明るさに応じてブリーチ剤を選定します。ミルボンのアディクシー ハイブリーチやウエラのブリーチマスターなど、リフト力と操作性のバランスが良いプロ用薬剤を使用します。オキシは6%を基本とし、根元やダメージ部分には3%や4.5%を使い分けることで、均一なリフトアップを目指します。これが髪の染め方の基本です。
STEP3: オンカラー(調合レシピ)
ブリーチ後のアンダーレベル(残留フェオメラニン)を見極め、それを打ち消す補色を選定します。
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📊 アンダートーン別オンカラー調合レシピ
| ベース状態 (アンダー) | 調合レシピ (ミディアム目安) | 放置時間 | 施術時間(目安) |
|---|---|---|---|
| 14レベル (オレンジ) | [マット(緑)系 グレージュ狙い] ミルボン オルディーブ 8-mAS 40g + ブルー 10% (4g) + OXY 3% 88g (1:2) (仕上がり9レベル) | 15分 | 約150分 (ブリーチ込) |
| 17レベル (イエロー) | [透明感アッシュ狙い] ウエラ イルミナカラー オーシャン 10 40g + オーキッド (紫) 10% (4g) + OXY 3% 88g (1:2) (仕上がり10レベル) | 10-15分 | 約180分 (ブリーチ込) |
| 18-19レベル (ペールイエロー) | [ホワイトベージュ狙い] ウエラ コレストンパーフェクト+ 10/88 30g + 10/68 10g + クリア 10g + OXY 1.5% 100g (1:2) (仕上がり10レベル) | 5-10分 (要目視) | 約210分 (ブリーチ2回込) |
2025年トレンドカラーで実践するメラニンコントロール術
2025年のトレンドは、フェオメラニンを「活かす」か「消す」かの両極化が進んでいます。Webリサーチによると、2025年のヘアカラーは「ココアブラウン」や「ワインレッド」といった暖色系の人気が再燃している一方で、定番の「オリーブ系」や「グレージュ」も根強い人気を誇ります。これらはメラニンコントロールの観点から非常に興味深いトレンドです。
1. 暖色系トレンド(フェオメラニンを活かす)
ターゲット: 「ココアブラウン」「ピンクブラウン」「ワインレッド」 あえてフェオメラニンの赤みやオレンジみを完全に消さず、それを土台として利用する技術です。
- ベース: ブリーチで13~14レベル(オレンジ)程度までリフトアップ。
- 施術のコツ: ベースのオレンジみにピンクやレッドを乗せることで、より深みと彩度の高い暖色系カラーが表現できます。補色のブルーやマットを過剰に使う必要がないため、薬剤選定がシンプルになります。
- レシピ例(ココアブラウン): ベース14レベルに、イルミナカラー ブロッサム 8 (30g) + シャドウ (10g) + OXY 3% (80g) 1:2。シャドウで深みを調整するのがポイントです。
2. 寒色系トレンド(フェオメラニンを消す)
ターゲット: 「オリーブアッシュ」「シアーグレージュ」 フェオメラニンを徹底的に抑制し、無彩色や寒色系の透明感を出す技術です。
- ベース: 最低でも16~17レベル(イエロー)までリフトアップ必須。
- 施術のコツ: 16レベルのアンダー(黄)に対して、補色の紫(バイオレット)を正確に投入します。⚠️ここで赤み(オレンジ)が残っていると、補色のアッシュ(青)と混ざり、緑に濁るため、ブリーチのクオリティが最も重要です。
- レシピ例(オリーブアッシュ): ベース15レベル(黄みのオレンジ)に、オルディーブ アディクシー 7-SmokyTopaz (40g) + Green (4g) + Blue (2g) + OXY 3% (92g) 1:2。赤みを消すGreenと黄みを消すBlue(紫の代用)のバランスが鍵です。
プロが陥るNG施術とリカバリーのコツ
メラニンコントロールの失敗は、主に「アンダーの見極めミス」と「補色の過剰使用」から起こります。私のサロンでも、若いスタッフが陥りがちな失敗例です。しかし、原因さえわかればリカバリーは可能です。
⚖️ メラニンコントロール NG vs OK
❌ NG例
- 14レベルのオレンジに紫を多用し濁る
- 黄みを消そうと青を使い緑になる
- 赤みが残る前提で暗いアッシュを選定し沈む
✅ OK例
- 14レベルのオレンジには青(補色)で対応
- 17レベルの黄みには紫(補色)で対応
- 補色は全体の5~10%に留め、微調整する
失敗時のリカバリー方法
ケース1:オンカラーが沈み込みすぎた(暗すぎ・濁り)
原因: アンダートーンに対して補色を入れすぎたか、薬剤のトーン選定が暗すぎたケース。特にダメージ毛は薬剤が過剰反応しやすいです。 リカバリー: 脱染剤(アシッドカラーオフなど)やライトナーを使い、一度色素をリセットします。オキシは1.5%~3%の低アルカリで慎重に行います。その後、今度はクリア剤を20~30%ミックスし、補色を減らして再度オンカラーします。ダメージケアとして、適切なヘアケアの提案も必須です。
ケース2:ブリーチムラ(根元だけ明るい、中間が暗い)
原因: 薬剤塗布量のムラ、または熱(頭皮の熱)の管理ミス。根元が明るくなるのはユーメラニンが早く分解されるためです。 リカバリー: 暗く残った中間部分(フェオメラニンが残存)のみ、ブリーチ剤(オキシ3%など弱め)を再塗布し、リフトアップを待ちます。根元や毛先の明るい部分には塗布しません。全体のトーンが均一になったことを確認してから、改めてオンカラーを行います。
メラニン色素に関するよくある質問(FAQ)
サロンワークでのお客様や若手美容師からよく受ける、メラニンに関する質問をまとめました。
まとめ:メラニンを制する者が、ヘアカラーを制する
お客様の希望色を叶える鍵は、ブリーチでどこまでフェオメラニンを削り、残った色素をどう扱うかに尽きます。今回は、プロ美容師なら知っておくべきメラニン色素の基本構造と、実践的な脱色順序、そしてアンダートーンの攻略法について解説しました。
ユーメラニン(黒)は簡単に削れますが、本当の戦いはその後に残るフェオメラニン(赤・黄)との戦いです。2025年のトレンドカラーである暖色系を美しく発色させるにも、寒色系の透明感を出すにも、このメラニンの特性理解は不可欠です。
今日の記事で解説したアンダーレベルの見極めと補色の使い方をマスターし、お客様の「なりたい」を叶えるヘアカラー技術をさらに磨き上げてください。ブリーチ技術は奥が深いですが、理論を理解すれば必ず失敗は減らせます。
📚 参考文献
- ミルボン公式サイト(オルディーブ 製品情報)
- ウエラ プロフェッショナル公式サイト(イルミナカラー カラーチャート)
- 日本ヘアカラー協会(JHCA)技術ガイドライン
- 毛髪科学関連書籍(美容学校教科書)
※本記事はプロの美容師向け技術情報であり、セルフカラーを推奨するものではありません。アレルギーや症状が気になる場合は医師に相談してください。
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