毛髪ダメージレベルの見極め|施術可否判定フローチャート

読了時間:約10分 | 難易度:★★★★☆(上級者向け)
この記事の結論: 正確なダメージ診断(特にウェット診断と履歴確認)が、施術の失敗を防ぎ、顧客の信頼を得る唯一の道です。
毛髪ダメージレベルの見極め|施術可否判定フローチャート

はじめに:その施術、本当に可能ですか?

ダメージレベルの正確な見極めは、プロ美容師の信頼と技術の根幹です。美容師歴20年以上の「髪技屋さん」です。サロンワークで「このお客様、ブリーチ希望だけど髪の体力が持つか…」「縮毛矯正の履歴があるけど、酸性カラーなら大丈夫か?」と悩む瞬間、あなたにもありませんか?お客様の「やりたい」に応えたい気持ちと、プロとしての「安全」を守る責任の間で葛藤するのは、真摯な美容師である証拠です。この記事では、曖ansかになりがちな毛髪ダメージレベルを5段階で明確に診断する方法と、施術可否を即座に判定できるフローチャートを、私の経験に基づいて解説します。

2025年トレンドとダメージ診断の重要性

2025年のトレンドは「ツヤ重視」と「高難易度技術」の二極化が進んでいます。ここ数年、「脱ブリーチ・髪質改善ブーム」により、チョコレートブラウンのようなツヤと深みを重視するカラーが人気を集めています。一方で、ハイトーンカラーやインナーカラー、姫カットレイヤーといったデザインカラーの需要も依然として根強いです。

注目すべきは、「酸性ストレート」や「酸性カラー」といった新技術の台頭です。これまでのアルカリ施術では不可能とされていた、ブリーチ毛(ダメージレベル4程度)へのアプローチが可能になりつつあります。私のサロンでも、酸性薬剤に関する問い合わせは増加傾向にあります。

しかし、技術が進化しても、髪の体力には限界があります。むしろ「酸性なら大丈夫」という安易な判断が、取り返しのつかない失敗を招くことも。だからこそ、今、プロには「この髪はアルカリ施術が可能か?」「酸性施術なら可能か?」「それとも一切の化学施術を断るべきか?」を正確に見極める「診断力」が、これまで以上に求められています。

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プロが実践する「5段階ダメージレベル」診断法

正確な診断は「問診」「視診」「触診」の3つの柱で成り立ちます。お客様の手触り感覚と、プロが見るべき化学的ダメージにはしばしばズレがあります。このズレを埋めるのが、私たちの重要な役割です。

1. 問診(最重要):お客様の「履歴」を引き出す

見た目や手触りだけでは判断できない、最も重要な情報が「施術履歴」です。私の経験上、特にブリーチや黒染めの履歴は、お客様自身が忘れていたり、軽視していたりするケースが約2割ほどあります。

  • ブリーチ(ハイライト、インナー含む)
  • 縮毛矯正(特にアルカリ)
  • 酸熱トリートメント(ブリーチ剤と過剰反応のリスクあり)
  • 黒染め、セルフカラー(特に赤系は残留しやすい)

「この履歴があると、ご希望の色が出にくい(またはダメージのリスクがある)可能性があります」と、理由を添えて必ず確認しましょう。

2. 視診:ツヤと「透け感」を見る

乾いた状態で、毛束を光に透かして見ます。

  • 健康毛 (Lv 1):キューティクルが整い、光を均一に反射して「天使の輪」が見える。
  • ダメージ毛 (Lv 3-4):光が乱反射し、ツヤがない。毛先が光に「透ける」または「白っぽく」見える場合、内部のタンパク質が流出している証拠です。

3. 触診(ドライ&ウェット):弾力と強度を確認

診断の核心は「ウェット診断(ストレッチテスト)」にあります。

  • ドライ診断:根元から毛先へ指を通し「ひっかかり」を確認。また、毛先から根元へ指を滑らせ「抵抗感(キューティクルの状態)」を確認します。ハイダメージ毛は抵抗がなく、ツルツルと滑ることがあります。
  • ウェット診断 (Lv 4-5 の見極め): 髪を濡らし、1〜2本つまんで優しく引っ張ります。
    • Lv 1-3:弾力があり、切れずに元に戻ろうとする。
    • Lv 4 (ハイダメージ):コシがなく、少し伸びる。
    • ⚠️ Lv 5 (施術不可):ゴムのようにビヨーンと伸びる、または濡らしただけでプチプチと切れる。この状態は「施術不可」のサインです。

📋 施術可否判定フローチャートと薬剤選定

診断結果に基づき、安全マージンを持った施術を機械的に判断します。問診とウェット診断を組み合わせれば、大きな失敗は防げます。

⚠️ 重要な注意事項

施術48時間前にパッチテスト必須。アレルギー反応が出た場合は施術を中止し、医師に相談してください。また、以下のフローチャートは化学施術の可否であり、パッチテストの結果を優先します。

📋 施術可否判定フローチャート

(START)
Q1.【問診】過去1年以内にブリーチ、縮毛矯正、酸熱トリートメントの履歴は?

※黒染め・セルフカラー履歴も「YES」に準ずる。

→ YES (履歴あり)
→ NO (履歴なし)
Q2.【ウェット診断】髪を濡らし引っ張ると「ゴム状に伸びる」か「切れる」か?
→ YES (伸びる/切れる)
→ NO (弾力あり)
【ダメージ Lv 5】 ⚠️ 施術不可 (一切の化学施術を中止し、カットと集中ケアを提案)
【ダメージ Lv 4】 要注意 (アルカリ施術NG) (酸性カラー、酸性ストレート、トリートメントのみ検討可)
Q3.【視診・触診】毛先にパサつきや、指のひっかかりが強いか?
→ YES (パサつきあり)
→ NO (ツヤあり)
【ダメージ Lv 3】 条件付き可 (低アルカリ(3%等)、プレックス剤併用でアルカリ施術可)
【ダメージ Lv 1-2】 施術可 (アルカリカラー、ブリーチ(6%)など幅広く施術可)

📊 ダメージレベル別 薬剤選定マトリクス

フローチャートの診断結果を、具体的な薬剤選定に落とし込みます。

📊 薬剤選定・施術マトリクス

ダメージレベル 推奨施術 非推奨施術 施術時間(目安)
Lv 1-2 (ロー) アルカリカラー (OXY 6%) ブリーチ、パーマ全般 特になし(ただし過度な放置は禁物) 約90分
Lv 3 (ミドル) アルカリカラー (OXY 3%~4.5%) プレックス剤(ファイバープレックス等)併用 高明度ブリーチ、アルカリ縮毛矯正 約120分
Lv 4 (ハイ) 酸性カラー、酸性ストレート 髪質改善トリートメント アルカリ施術全般 (ブリーチ、パーマ) 約150分
Lv 5 (スーパーハイ) 施術不可 (集中ケアトリートメント、カット提案) ⚠️ すべての化学施術 約60分 (ケア)

顧客対応のコツ:施術を「断る」カウンセリング術

診断の結果、施術不可(Lv 5)またはハイリスク(Lv 4)と判断した場合、それを伝える高いコミュニケーション能力が求められます。

  • NG例: 「あ、この髪は無理ですね。ブリーチできません。」(お客様は拒絶されたと感じ、サロンジプシーになります)
  • OK例: 「診断させていただいたところ、現在毛先がブリーチのダメージでデリケートな状態です。今ここでアルカリの薬を使うと、チリつき(ビビリ毛)のリスクが非常に高いです。お客様の髪を絶対に綺麗にしたいので、今日は酸性のカラーでツヤを優先するか、または未来のご希望のスタイルに向けて集中ケアで髪の体力を回復させませんか?」

ポイントは、「できない」という否定ではなく、「お客様の髪を守るため」というプロの視点と、「代替案」または「未来のプラン」を必ず提示することです。これが、ダメージケアを意識するお客様との信頼関係を築きます。

プロのコツとNG対応

診断ミスは「履歴の確認不足」と「ウェット診断の省略」から起こります。お客様の「手触りは良いから大丈夫」という言葉を鵜呑みにするのが最も危険です。

⚖️ ダメージ診断 NG vs OK

❌ NG例
  • お客様の「大丈夫」を鵜呑みにする
  • ウェット診断(ストレッチテスト)を省略する
  • ダメージLv 4にアルカリ施術を強行する
  • 酸熱履歴を見逃しブリーチする
✅ OK例
  • 必ず「履歴」を詳細に問診する
  • 疑わしい場合は必ずウェット診断を行う
  • Lv 4以上は「断る勇気」と「代替案」を持つ
  • 酸性施術の知識をアップデートし続ける

失敗時のリカバリー方法(ビビリ毛の発生)

万が一、診断ミスや予測不能な反応(隠れ履歴など)でビビリ毛(髪がチリチリになる状態)が発生してしまった場合、残念ながら髪を化学的に元に戻すことは不可能です。

最善の対処は、これ以上のダメージを避けること。アルカリ剤や還元剤の使用は即時中止します。シリコンや高分子ケラチンで一時的に手触りと見た目を補修するトリートメントを施し、お客様には誠意をもって謝罪の上、物理的にその部分をカットしていく以外に根本的な解決策がないことを説明します。酸熱トリートメントでのリカバリーは、髪の状態によってはさらなる硬化やダメージを招くため、極めて慎重に行う必要があります。

よくある質問(FAQ)

サロンワークでよく受ける、ダメージ診断に関する疑問にお答えします。

Q1. ブリーチ毛に縮毛矯正は本当にできませんか?

A1. 従来の「アルカリストレート」は、ダメージレベル4以上のブリーチ毛には絶対にNGです。髪が溶けたり、断毛したりするリスクが極めて高いです。しかし、近年進化した「酸性ストレート」であれば、髪の体力が残っている(Lv 4程度で、ウェット診断でゴム状に伸びない)場合に限り、施術可能なケースが増えています。ただし、高度な技術と薬剤知識、正確な診断が必須です。

Q2. 酸熱トリートメントの履歴があると、なぜブリーチが危険なのですか?

A2. 酸熱トリートメント(特にグリオキシル酸)は、髪内部に残留しやすい特性があります。この残留物がブリーチ剤のアルカリと反応し、予期せぬ化学反応(異常発熱や急激なダメージ進行)を引き起こす可能性があるためです。また、酸で硬化した髪はムラになりやすく、断毛のリスクも高まります。問診での確認が非常に重要です。

Q3. お客様が履歴(黒染めなど)を隠していた場合、どう対処しますか?

A3. プロ美容師にとって最も難しい問題の一つです。これを防ぐため、私はカウンセリング時に「履歴が正確でない場合、万が一ムラやダメージが出てもお直しが難しい」と予防線を張るようにしています。万が一施術中に発覚した場合(ブリーチしてもそこだけ色が抜けない等)は、即座に施術を中断し、お客様に現状を説明します。その日はダメージを最小限に抑えるケアを優先し、無理な施術は行いません。

まとめ:診断力こそがプロの価値

お客様の「やりたい」を叶えるのが私たちの仕事ですが、それは「髪の安全」という土台があってこそです。2025年以降、毛髪ダメージレベルの見極めは、酸性施術の普及によりさらに複雑化します。

今日の施術可否判定フローチャートは、あくまで基本です。最終的には、あなたの指先が感じる「ウェット診断」の感覚と、お客様の髪の履歴を深く掘り下げる「問診力」が全てを決めます。「これは危ない」と感じた時に、自信を持って「断る勇気」と「代替案を提案する知識」を持つこと。それこそが、お客様の髪を生涯任せてもらえるプロフェッショナルとしての最大の価値です。

🎥 動画でダメージ毛のカウンセリング術を解説

📚 参考文献

  • ウエラ プロフェッショナルズ 公式技術ガイド
  • ミルボン オルディーブ 公式薬剤情報
  • シュワルツコフ プロフェッショナル ファイバープレックス技術資料
  • 日本ヘアカラー協会(JHCA) 毛髪科学ガイドライン

※本記事はプロの美容師向け技術情報であり、セルフ施術を推奨するものではありません。アレルギーや症状が気になる場合は医師に相談してください。

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【髪技屋さんのプロフィール】

■ 美容師歴・実績: 20年以上のベテラン美容師。🏆 全国大会入賞、📝 美容専門誌掲載の実績を持つ。

■ 活動内容: 髪の知識・技術全般の講師としても活動。プロも支持する技術で髪の悩みを解決。

■ YouTube: 動画数 1200本以上、総再生回数 2700万回、登録者 3.8万人を達成。

■ ブログ: 記事数 700本以上。ヘアケア、カラー調合、骨格別ヘアなど、髪のあらゆる疑問を解決。