パーマの基礎理論|還元と酸化の仕組み

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パーマの基礎理論|還元と酸化の仕組み

パーマの仕組み解明!「還元」と「酸化」の化学反応とは?

パーマは「還元」で髪の結合を切り、「酸化」で再結合させる化学反応です。こんにちは、美容師歴20年以上の「髪技屋さん」です。サロンワークで「パーマってどうしてかかるんですか?」とご質問いただくことがよくあります。デザインの相談はもちろん大切ですが、どういった仕組みで髪が変形するのかを知ることは、パーマを長持ちさせ、ダメージを最小限に抑えるためにも非常に重要です。

パーマが似合うか不安、という悩みも、その多くは「ダメージ」や「かかり具合の失敗」から来ています。これらの失敗は、髪質とパーマの化学理論(薬剤)の相性が合っていない場合に起こりやすいのです。

この記事の結論: パーマの基礎理論(還元と酸化)を理解すれば、薬剤選定ミスによる失敗を防ぎ、ヘアケアの質が向上する!

この記事では、パーマがなぜかかるのか、その核心である「還元」と「酸化」の仕組みを、美容師の視点から分かりやすく解説します。この理論を知ることで、あなたが次にサロンで受けるパーマ施術の理解が深まり、より良いスタイル選びとヘアケアにつながるはずです。

パーマが「かかる」とは?髪の構造と4つの結合

パーマは髪内部の「SS結合」を切断し、ロッドの形で再結合させる技術です。まず、なぜ髪が曲がったままの形を維持できるのか、髪の内部構造から見ていきましょう。私たちの髪は、主に「ケラチン」というタンパク質でできています。このタンパク質は、いくつかのアミノ酸が鎖状につながってできています。

「ケラチンタンパク質」とは: 髪の毛の約80%~90%を占める主成分。18種類のアミノ酸から構成されており、特に「シスチン」というアミノ酸を多く含むのが特徴です。

髪の内部には、このタンパク質の鎖同士を結びつける「4つの結合」が存在します。これらの結合が、髪の形や強度を決定しています。

髪の形状を支える4つの結合

  1. SS結合(シスチン結合): 髪の結合の中で最も強く、パーマに直接関係する結合です。シスチンというアミノ酸同士が、硫黄(S)を介して強固に結びついています。パーマは、このSS結合を一度切断(還元)し、形を変えて再び繋ぎ直す(酸化)ことで形状記憶させます。
  2. 水素結合: 髪が濡れると切れ、乾くと再結合する結合です。ブローで髪にクセがつくのは、この水素結合の働きによるものです。パーマの強さには直接関係しませんが、日々のスタイリングで最も利用する結合です。
  3. イオン結合(塩結合): 髪のpH(酸性・アルカリ性)によって強さが変わる結合です。髪は弱酸性(pH4.5~5.5)の時に最も安定します。アルカリ性の薬剤(パーマ剤やカラー剤)に触れるとこの結合は切れ、ダメージの原因にもなります。
  4. ペプチド結合: タンパク質の元となるアミノ酸同士をつなぐ、最も基本的な結合です。非常に強固で、一度切れると元に戻りません。⚠️ この結合が切れると「髪の溶解(テロテロになる)」状態になり、重度のダメージとなります。

パーマの理論を理解する上で最も重要なのは、この「SS結合」です。例えるなら、SS結合は髪の「骨格」そのものです。この骨格を一度バラバラにし、違う形で組み直す作業がパーマなのです。

パーマの核心「還元反応」とは?(第1剤の役割)

「還元」とは、第1剤(還元剤)を使って髪のSS結合を切断するプロセスです。パーマ施術の際、最初につけるクリームや液体が「第1剤」です。この1剤には「還元剤」と「アルカリ剤」が含まれており、2つの役割を持っています。

  1. アルカリ剤の役割: 髪の表面を覆うキューティクルを開き、薬剤が内部に浸透する道を作ります。
  2. 還元剤の役割: 浸透した還元剤が、髪の骨格である「SS結合(-S-S-)」を「-SH」と「HS-」という形に切断(還元)します。

このSS結合が切れた状態では、髪は芯を失い、非常に柔らかく変形しやすい状態になります。このタイミングでロッドを巻くことで、髪はロッドの形に従うことができます。

還元剤の種類と特徴

この「SS結合を切る力(還元力)」を持つ還元剤には、いくつかの種類があります。髪質や desired なカールによって、美容師はこれらを使い分けています。私のサロンでも、お客様のダメージレベルや希望スタイルに応じて、これらの薬剤を慎重に選定します。

🎯 主な還元剤(第1剤)の比較

還元剤の種類 特徴 メリット デメリット
チオグリコール酸 (チオ系) 還元力が最も強い。医薬部外品。 太い髪や健康毛でもしっかりかかる。リッジの強いカール向き。 ダメージリスクが高い。硬い仕上がりになりやすい。
システイン (シス系) 髪のアミノ酸に近い成分。還元力はマイルド。 ダメージが少ない。自然で柔らかい仕上がり。 かかりが弱い。健康毛にはかかりにくい場合がある。
システアミン 化粧品登録。浸透性が高い。 ダメージ毛にも比較的使いやすい。柔らかくしなやかなカール。 独特の臭い(残臭)が出やすい。
チオグリセリン 保湿性があり、穏やかに作用。 低ダメージ。健康毛には早く、ダメージ毛にはゆっくり作用し均一化しやすい。 還元力自体は穏やか。

最近のトレンドである「酸性パーマ」は、この分類とは異なり、アルカリ剤を使わずに酸性の領域で作用する「グリオキシル酸」や「レブリン酸」などを使用します。これにより、キューティクルを開かずに還元できるため、ダメージを最小限に抑えられるのが特徴です。

形を記憶させる「酸化反応」とは?(第2剤の役割)

「酸化」とは、第2剤(酸化剤)を使い、切断したSS結合をロッドの形で再結合させるプロセスです。第1剤でSS結合が切断され、ロッドで形が作られた髪に、第2剤を塗布します。この第2剤に含まれる「酸化剤」が、バラバラになっていた「-SH」と「HS-」から水素(H)を奪い取り、再び「-S-S-」の形に繋ぎ直します(再結合)。

この「酸化」によって、髪はロッドで巻かれたカール(あるいはストレートアイロンで伸ばされた形)のまま固定されます。これがパーマが「形状記憶」される仕組みです。

この酸化(再結合)が不十分だと、せっかく作ったカールがすぐに取れてしまいます。そのため、第2剤の塗布と放置時間は非常に重要な工程です。

酸化剤の種類と特徴

酸化剤にも主に2つの種類があり、それぞれ仕上がりの質感や特性が異なります。

🎯 主な酸化剤(第2剤)の比較

酸化剤の種類 通称 特徴 メリット デメリット
臭素酸ナトリウム ブロム酸 / ブロム 酸化作用が穏やか。放置時間が長め(約10~15分)。 仕上がりがしっかりし、ハリ・コシが出やすい。 ヘアカラーの色落ち(褪色)が大きい
過酸化水素 過水(かすい) / オキシ 酸化作用が強い。放置時間が短い(約5~10分)。 ヘアカラーの色落ちが少ない柔らかい質感に仕上がる。 作用が急激なため、髪質によってはダメージリスクあり。

カラーとパーマを同時に行うサロンも多いですが、私の経験上、パーマによるカラーの褪色は非常によくある悩みです。そのため、カラー毛のお客様には、褪色が少ない「過酸化水素」ベースの第2剤を選択することが多いです。

理論の応用:コールドパーマ vs デジタルパーマ

この「還元」と「酸化」の基本理論は、全てのパーマ技術に応用されています。一般的に「コールドパーマ(普通のパーマ)」と「デジタルパーマ(ホットパーマ)」と呼ばれるものでは、この理論の「どのタイミング」で熱を加えるかが異なります。

「コールドパーマ」と「デジタルパーマ」
  • コールドパーマ: 全ての工程を常温(Cold)で行う、最も基本的なパーマ。SS結合の切断(還元)も再結合(酸化)も、薬剤の化学反応のみに依存します。
  • デジタルパーマ: 還元反応(1剤)の途中、または1剤を流した後に、ロッド自体を加熱(Hot)するパーマ。

デジタルパーマの仕組み(熱の役割)

デジタルパーマが「持ちが良い」「乾かすとカールが出る」と言われるのは、熱を加えるプロセスに秘密があります。

髪は濡れている時、先述の「水素結合」が切れています。コールドパーマはSS結合だけを固定しているため、濡れると水素結合が切れてカールが強く出て、乾くと水素結合が繋がってカールが少しダレます(濡れている時が一番カールが強い)。

一方、デジタルパーマは、SS結合が切れている(還元)状態でロッドを加熱します。この熱によって、SS結合の再結合(酸化)がより強固になるだけでなく、タンパク質が熱変性を起こし、髪そのものが「乾いた状態の形」を記憶します(=水素結合の力も利用する)。

これにより、デジタルパーマは「乾かすほどにカールが再現される」という、コールドパーマとは逆の特性を持つのです。私の経験上、ダメージ毛や細毛でパーマが取れやすい方には、この熱を利用するデジタルパーマの方が持続性が高い傾向があります。

プロが教える理論に基づいた注意点(プロコツ・NG)

パーマ理論を理解すると、施術後の正しいヘアケア方法も見えてきます。特に「なぜパーマ当日はシャンプーしない方が良い」と言われるのか、これには「酸化」の安定が関わっています。

⚠️ パーマ施術後の髪は「デリケート」です

パーマ後の髪は、見た目はカールがついていても、内部はまだ不安定な状態です。SS結合は再結合しましたが、髪はアルカリ性に傾き、キューティクルも開きがちです。完全に安定するまで(pHが弱酸性に戻るまで)には時間がかかります。

なぜ当日のシャンプーはNGと言われる?(酸化の安定)

ひと昔前は「パーマ後48時間はシャンプーしないでください」と言われるのが一般的でした。これは、第2剤(酸化剤)によるSS結合の再結合(=化学的な酸化)が完了しても、髪内部で安定しきれていない結合があり、それらが空気中の酸素によってゆっくりと固定される「自然酸化」も必要だと考えられていたためです。

しかし、現代の薬剤(特に過酸化水素)は酸化力が強いため、サロンでの第2剤処理が完了した時点で、SS結合の再結合はほぼ完了している、というのが現在の主流の考え方です。

では、なぜ今でも「当日は控えて」と言う美容師が多いのか?(私もそうお伝えすることがあります)

私の見解としては、「SS結合」の問題ではなく、「アルカリ残留」「物理的刺激」を避けるためです。

⚖️ パーマ当日のケア NG vs OK

❌ 当日NGとされる理由(理論的背景)
  • 洗浄力の強いシャンプー: 残留アルカリと反応し、髪をさらに不安定にする。
  • ゴシゴシ洗う物理的刺激: キューティクルが開きがちなため、摩擦でダメージが進む。
  • 不完全な乾燥: 濡れたまま寝ると、水素結合が変なクセのまま固定される。
✅ 推奨されるケア
  • 最低24時間は空ける: 髪が弱酸性に戻るのを待つ。
  • 当日はお湯洗い(湯シャン): 汚れが気になる場合は、薬剤を洗い流すイメージで優しく。
  • パーマヘア用シャンプー: アミノ酸系などの低刺激な洗浄成分を選ぶ。

⚠️ 理論上、パーマ(SS結合)は当日のシャンプーで取れません。しかし、髪がアルカリに傾きデリケートな状態での過度なシャンプーは、ダメージを促進させ、結果的にカールの持続力を低下させる(=チリつきやパサつきでカールが綺麗に出なくなる)可能性があります。これが「当日は避けた方が無難」という理由です。

理論から見るパーマ後のヘアケア

還元と酸化を経た髪は、SS結合は再結合していますが、内部のタンパク質や脂質が流出し、乾燥しやすい状態になっています。特にデジタルパーマで熱を加えた髪は、タンパク質が硬くなりがちです。

そのため、パーマ後のスタイリング剤は「カールを固定する」目的と「保湿・補修する」目的を兼ね備えたものが理想的です。

例えば、「ナプラ N. ポリッシュオイル」は、Amazon(※参考:LIPS)で約2,165件以上のレビューを獲得し、平均評価は★4.28(2025年11月時点)と非常に人気が高い製品です。シアバターなどの天然由来成分が主で、パーマ後の乾燥しがちな髪に適度な油分とツヤを与え、濡れ感のある束感を再現するのに適しています。理論上、アルカリに傾いた髪を保湿・コーティングし、物理的ダメージから守る役割を果たします。

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パーマの仕組みに関するよくある質問(FAQ)

ここでは、サロンワークでよく聞かれるパーマの理論に関する質問にお答えします。

Q1. パーマをかけると髪は傷みますか? ハゲたりしませんか?

A. 理論上、SS結合を切断・再結合するプロセスは、髪にとって「負担」であり、少なからずダメージは発生します。ただし、パーマが直接的な原因で薄毛(ハゲる)になることはありません。 ただし、1剤(特にアルカリ剤)が頭皮に過度な刺激を与えると、炎症を引き起こす可能性はあります。また、ダメージによる「切れ毛」を「抜け毛」と勘違いすることもあります。信頼できる技術者に、頭皮を保護しながら施術してもらうことが重要です。

Q2. 1剤を塗った後、キャップをしたり温めたりするのはなぜですか?

A. 「還元反応」は化学反応の一種であり、温度が高いほど活発になります(反応が促進されます)。 キャップをするのは、体温で内部を「保温」し、薬剤の反応を均一に進めるためです。また、薬剤の「乾燥防止」の目的もあります。薬剤が乾燥すると、その部分だけ反応が止まってしまい、ムラの原因になるためです。

Q3. パーマの頻度はどれくらいが理想ですか?

A. 髪の健康を考えると、最低でも2〜3ヶ月は間隔を空けることを推奨します。デジタルパーマなど持続性が高いパーマであれば、半年に1回程度でも十分な場合があります。 理論的には、一度パーマをかけた部分(既施術部)はSS結合が組み替えられています。短期間でパーマを繰り返すと、同じ部分に何度も還元剤が作用し、髪の体力が失われ、チリつきや断毛の原因となります。日々のヘアケアでコンディションを整えることが前提です。

まとめ:パーマは「化学」。理論を知って美髪を維持しよう

今回は、パーマが「還元」と「酸化」という化学反応によって成り立っていることを解説しました。

1. 還元(1剤): 髪のSS結合を切断し、変形可能な状態にする。 2. 酸化(2剤): ロッドの形でSS結合を再結合させ、カールを固定する。

この2ステップがパーマの全てであり、薬剤(チオ、シス、過水、ブロム)の選択や、熱(デジタルパーマ)の利用は、この基本理論の応用に過ぎません。パーマの仕組みを知ることで、なぜダメージするのか、なぜ当日のシャンプーを避けた方が良いのか、その理由が見えてきたかと思います。

自分の髪質に合わない強い薬剤(例:ダメージ毛に強いチオグリコール酸)を使えば、過度に還元されて髪は大きなダメージを受けます。逆に、健康毛にマイルドな薬剤を使ってもSS結合が切れず、パーマがかかりません。

あなたがトレンドのパーマスタイルを楽しむためにも、この基礎理論を理解し、信頼できる美容師さんと相談しながら、最適な薬剤と方法を選んでもらうことが最も重要です。

私のYouTubeチャンネル「髪技屋さん」では、パーマ後のスタイリング方法なども動画で詳しく解説しています。理論と実践で、ぜひ美しいパーマヘアを長持ちさせてください。

🎯 この記事の3つのポイント

  • パーマはSS結合の「還元(切断)」と「酸化(再結合)」で形状記憶される。
  • 薬剤(還元剤・酸化剤)には種類があり、髪質や仕上がりに合わせて使い分ける必要がある。
  • 理論を知ることで、パーマ当日のシャンプー問題など、適切なヘアケアが選択できる。

📚 参考文献

  • デミ コスメティクス「髪と頭皮の基礎理論ケミカル講座」
  • 日本パーマネントウェーブ液工業組合「毛髪・パーマのQ&A集」
  • 美容技術理論(美容師国家試験テキスト)

※本記事は一般情報であり、医療アドバイスではありません。アレルギーや症状が気になる場合は医師に相談してください。

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【髪技屋さんのプロフィール】

■ 美容師歴・実績: 20年以上のベテラン美容師。🏆 全国大会入賞、📝 美容専門誌掲載の実績を持つ。

■ 活動内容: 髪の知識・技術全般の講師としても活動。プロも支持する技術で髪の悩みを解決。

■ YouTube: 動画数 1200本以上、総再生回数 2700万回、登録者 3.8万人を達成。

■ ブログ: 記事数 700本以上。ヘアケア、カラー調合、骨格別ヘアなど、髪のあらゆる疑問を解決。