- なぜ黒染めは普通のカラー剤で明るくならないのか?
- 市販の「黒染め落とし」を使った安全なトーンアップ手順
- 黒染め特有の色ムラを防ぐ「時間差塗り」の裏技
- 黒染めを落とした後の、赤みを消すカラー剤の選び方
ヘアカラー(黒染め落としを含む)は使用48時間前にパッチテストが必須です。 アレルギーは体質の変化で突然発症することがあります。 詳しい手順は本文の安全ガイドで必ず確認してください。
はじめに
黒染めからのトーンアップは「薬剤選び」と「塗り順」が鍵です。 美容師の「髪技屋さん」です。私のサロンにも「就活で黒染めしたけど、やっぱり明るくしたい」「市販のカラー剤を使ったら根元だけ明るくなって失敗した」というご相談が後を絶ちません。
まず知っておいてほしいのは、黒染めした髪は、市販の通常のヘアカラー剤(おしゃれ染め)では絶対に明るくならないということです。
この記事では、美容師歴20年以上の経験から、黒染め特有の色ムラ失敗を防ぎ、市販の「黒染め落とし(脱染剤)」を使って安全にトーンアップする「時間差塗りの裏技」を徹底解説します。正しい手順を知れば、セルフカラーでも均一な仕上がりを目指せますよ。
黒染めトーンアップでよくある失敗とその原因
黒染めからのトーンアップは、セルフカラーの中でも最高難易度です。多くの方が「明るいカラー剤を使えば明るくなるはず」と誤解して失敗しています。
失敗例1: 根元だけ明るい「逆プリン」状態
これが最も多い失敗です。新しく生えてきた地毛(新生部)はカラー剤で明るくなりますが、黒染め部分は染料が強すぎて明るくなりません。結果、根元だけが明るい茶髪になり、毛先は黒いままという悲惨な「逆プリン」状態になります。
失敗例2: 赤黒い「色ムラ」になる
黒染めが薄く残っている部分だけが反応し、赤茶色になるケースです。特に黒染めを繰り返している髪は、染料が濃い部分と薄い部分が混在しており、市販のブリーチ剤などを使うと制御不能なまだら模様になりがちです。
【サロン事例】カラー剤で「逆プリン」になった20代女性
以前、20代前半の女性が「セルフカラーで大失敗した」と駆け込んできました。
【状況・ベース】: 3ヶ月前に就活で市販の泡カラーで黒染めを1回使用。根元が3cmほど伸びていました。
【失敗内容】: 市販の「明るいアッシュ系カラー剤」で全体を染めたところ、根元の地毛3cmだけが明るい茶色に染まり、黒染め部分は全く変わらず真っ黒なまま。
【原因分析】: 黒染めの濃い人工染料は、市販のカラー剤(おしゃれ染め)のブリーチ力では分解できません。体温で温められた根元の地毛(新生部)だけが薬剤に反応し、明るくなってしまった典型的な失敗です。
【解決+再現性】: サロンでまず「脱染剤」を使い、黒染め部分の色素を慎重に抜いてから、全体の色を均一に染め直しました。次回からは、必ず「黒染め落とし(脱染剤)」で黒染め部分を先に明るくしてからカラー剤を使うよう指導しました。
原因は「脱染剤」を使っていないから
黒染めを明るくするには、まずその「黒い染料」を取り除く必要があります。それ専用の薬剤が「脱染剤(だっせんざい)」、いわゆる「黒染め落とし」です。
ブリーチ(脱色剤)でも染料は抜けますが、ブリーチは髪のメラニン色素(地毛の色)も壊すため、ダメージが非常に大きくなります。まずはダメージを抑えつつ人工染料を抜く「脱染剤」を使うのが、セルフカラーではおすすめです。
- 脱染剤 (黒染め落とし): 主に人工染料(黒染めなど)を分解します。髪のメラニン色素への影響は比較的少なく、ブリーチよりダメージを抑えられます。仕上がりは赤みやオレンジみが残ります。
- ブリーチ (脱色剤): 人工染料もメラニン色素も強力に分解(脱色)します。明るくする力は最強ですが、髪へのダメージが非常に大きいです。
この記事では、ダメージを比較的抑えられる市販の「黒染め落とし(脱染剤)」を使った方法を解説します。
安全性・準備ガイド
黒染め落としもブリーチも、アレルギーリスクは同じです。 黒染め落とし(脱染剤)は、通常のカラー剤やブリーチ剤と同様に、アレルギー(ジアミンアレルギーなど)を引き起こす可能性があります。
「以前カラー剤で大丈夫だったから」は通用しません。アレルギーはある日突然発症します。
パッチテストは、薬剤を腕の内側などに少量塗り、48時間(2日間)様子を見るアレルギー検査です。
塗布後30分と48時間後の2回、かゆみ、赤み、腫れ、ブツブツなどが出ないか必ず確認してください。
異常が出た場合は、絶対に薬剤を使用せず、洗い流して皮膚科を受診してください。
必須の準備物リスト
薬剤を塗り始めてから「あれがない!」と慌てないよう、完璧に準備しましょう。
- 黒染め落とし(脱染剤): ホーユー「ビューティーン 黒染め落とし」など。
⚠️ 髪の量が多い方、肩より長い方は必ず「2箱」準備してください。薬剤不足はムラの最大の原因です。 - 混合用トレイ・ハケ: 薬剤に付属していない場合。
- ケープ(または汚れてもいいタオル・服)
- 手袋(付属のもの)
- イヤーキャップ
- ワセリン(またはコールドクリーム): 額、耳、襟足など皮膚を保護します。
- ダッカール(ヘアクリップ): 髪を4分区に分けるために必須。
- 鏡(正面と、できれば三面鏡か合わせ鏡)
黒染めトーンアップ!「時間差塗り」のセルフカラー施術方法
ここが最重要ポイントです。黒染めトーンアップの成否は「塗る順番」で決まります。体温の影響で明るくなりやすい「根元の新生部」を避け、染料が残りやすい「中間〜毛先」から先に塗る「時間差塗り」を徹底しましょう。
ここでは市販の「ビューティーン 黒染め落とし」などの脱染剤を使うことを想定して解説します。
📋 黒染め落とし「時間差塗り」の3ステップ
準備・4分区・皮膚の保護
根元を避け「黒染め部分」を先行塗布(15分放置)
「根元」を塗り、全体放置後に洗い流す
※注釈: 4分区=髪を上下左右4つのブロックに分ける塗布技法。均等な薬剤配分により色ムラを防ぐプロの基本テクニックです。
詳細な施術手順(約40〜50分)
- 1. 準備と保護(10分)
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薬剤を説明書通りに混ぜます。髪を上下左右の「4分区」にダッカールでしっかり分けます。
ワセリンを額の生え際、耳、耳の後ろ、襟足に「これでもか」というくらい厚めに塗って皮膚を保護します。 - 2. 【重要】STEP2: 黒染め部分への先行塗布(10分)
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⚠️ 必ず、根元の新生部(伸びてきた地毛)を1〜2cm避けてください。
4分区のうち、体温が低く染まりにくい「襟足」のブロックから塗り始めます。
薬剤をハケでたっぷり取り、根元を避けた「中間〜毛先」の黒染めが残っている部分に素早く塗布します。薬剤をケチるとムラの原因になるため、2箱準備した方はここで惜しみなく使います。 - 3. 1次放置(15分)
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黒染め部分に薬剤を塗り終えたら、ラップをかけずに15分ほど放置します。(※時間は髪の太さや黒染めの濃さで調整)
黒染めがジワジワと明るく(赤っぽく)なってくるのを確認します。 - 4. STEP3: 根元への塗布と2次放置(10〜15分)
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避けておいた根元の新生部(1〜2cm)に薬剤を塗布します。
全体に薬剤が塗られたら、粗めのコームで優しくとかして馴染ませます。
(例:説明書の合計放置時間が30分なら、ここから10〜15分追加で放置)
放置時間は説明書を厳守してください。自己判断で長く置いても、ダメージが増えるだけで明るさには限界があります。 - 5. 乳化とすすぎ(5分)
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時間が来たら、シャワーのぬるま湯を少量髪につけ、薬剤を髪全体で優しく泡立てるように揉み込みます(乳化)。これにより、薬剤が均一にいきわたり、頭皮の薬剤も落ちやすくなります。
その後、薬剤の色が出なくなるまで、よーーーくすすぎます。付属のシャンプー・トリートメント、またはお手持ちのダメージケア用アイテムで仕上げます。
【サロン事例】薬剤をケチってムラになった30代男性
白髪隠しで黒染めを繰り返していた30代の男性のお客様が、ご自身でブリーチを試みたケースです。
【状況・ベース】: 3ヶ月に1回、市販のメンズ用黒染めを使用。根元は白髪が目立ち、毛先は黒染めが蓄積。
【失敗内容】: 市販のブリーチ剤1箱で、根元から毛先まで一気に塗布。
【原因分析】: まず「薬剤不足」です。男性でも毛量があれば1箱では足りません。薬剤が少ない後頭部は真っ黒なままでした。さらに「時間差塗り」をしなかったため、体温の高い根元(特に白髪)だけがキンキンに明るくなり、黒染めがしつこい毛先は暗いままという、最悪のムラ状態になりました。
【解決+再現性】: サロンでブリーチをやり直し、ムラを修正しました。次回からは必ず「黒染め落とし」を使い、薬剤は「2箱」準備すること。そして、必ず毛先・中間から先に塗り、最後に根元を塗る「時間差塗り」を徹底するよう指導しました。
黒染めベース別のカラー剤選びのコツ
まず大前提として、「黒染め落とし」を使っても、髪は希望のキレイな色にはなりません。
脱染剤は、あくまで黒い染料を抜くだけ。仕上がりは、黒染めの下に隠れていた元の髪の色、つまり赤みやオレンジみが強く残った茶髪になります。
希望のトレンドカラー(アッシュ系など)にするには、黒染め落としでベースを明るくした後、最低でも1週間は髪を休ませてから、2回目のカラー(おしゃれ染め)をする必要があります。
その際に選ぶべきは、残った赤み・オレンジみを打ち消す「補色」のカラー剤です。
🔵 赤みが強く残ったベースに
赤の補色である「緑=マット系」や「青=アッシュ系」がおすすめです。
- おすすめカラー: マット、オリーブ、アッシュ
- 市販品例: フレッシュライト「ミルキーヘアカラー(ミラーアッシュ)」、ビューティラボ「ホイップヘアカラー(シフォンベージュ)」など
🟠 オレンジみが強く残ったベースに
オレンジの補色である「青=アッシュ系」や「グレー系」がおすすめです。
- おすすめカラー: アッシュ、グレージュ、ブルー系
- 市販品例: ロレアル パリ「エクセランス ヘアカラー(7NG グレージュ)」、サイオス「カラージェニック(クリスタルアッシュ)」など
2025年のトレンドである透明感カラー(アッシュグレーやオリーブベージュ)を目指すなら、この赤み消しは必須のプロセスです。逆に赤みを活かしてピンクベージュ系にする方法もありますが、ムラになりやすいため上級者向けです。
色持ちを良くする!メンテナンス方法
黒染め落とし後の髪は、非常にデリケートです。 黒染め落としやブリーチを使った髪は、キューティクルが開きっぱなしの状態です。そのままでは、せっかく入れた新しい色がすぐに流れ出てしまいますし、ダメージも進行します。
色持ちを良くする鍵は「シャンプー」と「保湿」です。
対策1: カラーシャンプー(ムラシャン等)を使う
黒染め落としの後の「赤み・オレンジみ」を抑えたり、その上から入れたアッシュ系カラーを長持ちさせるために、カラーシャンプーは必須アイテムです。
- アッシュ・グレー系にした場合: 紫シャンプー(ムラシャン)またはアッシュシャンプー。黄ばみを抑え、透明感を維持します。
- ピンク・赤系にした場合: ピンクシャンプー。色味を補充します。
通常のシャンプーと併用し、3日に1回程度使うのがおすすめです。
対策2: アフターケアと保湿
髪が濡れている時間は、キューティクルが開き、色が最も抜けやすい時間です。
⚖️ 色落ちを早める NG vs 色持ちUPの OK
❌ NG(色落ち加速)
- 40℃以上の熱いお湯でシャンプー
- 洗浄力の強い(ラウレス硫酸Naなど)シャンプー
- お風呂上がりに髪を濡れたまま放置する
- アイロンやコテを毎日180℃で使う
✅ OK(色持ちUP)
- 38℃以下のぬるま湯ですすぐ
- アミノ酸系など洗浄力がマイルドなシャンプー
- お風呂から出たら「すぐに」乾かす
- 洗い流さないトリートメントで保湿・保護
特に「すぐ乾かす」ことは、色持ちとヘアケアの両面で非常に重要です。
よくある質問(FAQ)
黒染めトーンアップでよくある疑問にお答えします。
- Q1: 黒染めを「カラー剤」だけで明るくできますか?
- A1: ほぼ不可能です。黒染めの濃い染料は、市販のヘアカラー剤(おしゃれ染め)では分解できません。根元だけが明るくなり、深刻な色ムラになります。必ず「黒染め落とし」か「ブリーチ」が必要です。
- Q2: 脱染剤(黒染め落とし)とブリーチの違いは?
- A2: 脱染剤は黒染めの人工染料を主に分解し、ダメージは比較的少ないですが、赤みが残ります。ブリーチは髪のメラニン色素も脱色するため明るくなりますが、ダメージが非常に大きいです。セルフカラー初心者の方には、まず脱染剤をおすすめします。
- Q3: 黒染め落としを使えば、好きな色になりますか?
- A3: いいえ。黒染め落としは「黒い染料を抜く」薬剤です。仕上がりは赤みやオレンジみの残る茶髪になります。希望の色にするには、その上からアッシュ系などのカラー剤で「2回目のカラー」が必要です。
まとめ
黒染めからのセルフカラー成功は「脱染剤」と「時間差塗り」が鍵です。 黒染めからのトーンアップは難易度が高いですが、失敗する原因と正しい手順さえ知っていれば、セルフカラーでも対応可能です。
重要なポイントをもう一度おさらいします。
- 通常のカラー剤では明るくならない。必ず市販の「黒染め落とし(脱染剤)」を使う。
- 根元だけ明るくなる「逆プリン」を防ぐため、根元を1〜2cm避け、黒染め部分(中間〜毛先)から先に塗る「時間差塗り」を徹底する。
- 薬剤不足はムラの元。肩より長い髪は必ず2箱準備する。
- パッチテストは使用48時間前に絶対に実施する。
まずはご自身の髪の状態(黒染めの回数や根元の伸び)をよく観察し、無理のないトーンアップ計画を立ててください。
黒染め落としの詳しい塗布手順や、薬剤が反応していく様子は、髪技屋さんのYouTubeチャンネルでも動画で確認できますので、ぜひ参考にしてみてください。
📚 参考文献
- ホーユー株式会社 公式サイト(ビューティーン製品情報)
- ヘンケルジャパン株式会社 公式サイト(フレッシュライト製品情報)
- 日本ロレアル株式会社 公式サイト(ロレアル パリ製品情報)
- 厚生労働省「染毛による皮膚障害」
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