美容師国家試験とは?筆記と実技の二本立て
美容師国家試験は筆記と実技の両方で合格が必要です。美容師になるために避けては通れない、唯一の国家資格試験です。厚生労働大臣の指定を受けた「公益財団法人理容師美容師試験研修センター」が実施しています。
試験は、美容師に必要な知識を問う「筆記試験」と、基本的な技術力・衛生観念を問う「実技試験」の2つで構成されています。どちらか片方だけ合格しても免許は取得できず、両方の試験で合格基準を満たして初めて「美容師免許」を申請する権利が得られます。
合格率は回によって変動しますが、近年は全体で約80%~90%台(新卒者)で推移することが多いです。しかし、これは「学校でしっかり対策した新卒者」の数値です。油断せず、試験制度を正確に理解することから対策を始めましょう。
受験資格をチェック!美容学校(昼間・通信)の修了が必須
受験資格は美容師養成施設(美容学校)の卒業です。独学やサロンワークの経験だけでは、国家試験を受験すること自体ができません。美容師法に基づき、都道府県知事が指定した美容師養成施設(美容専門学校)で所定の課程を修了する必要があります。
この養成施設には、大きく分けて3つの課程があります。
- 昼間課程(2年以上): いわゆる「全日制」です。平日の日中に通学し、知識と技術を集中的に学びます。美容学生の多くがこの課程に属します。
- 夜間課程(2年以上): 平日の夜間に通学する課程です。昼間はサロンでアルバイト(見習い)をしながら通う学生もいます。
- 通信課程(3年以上): サロンで働きながら免許取得を目指す人や、社会人の方が選ぶことが多い課程です。自宅でのレポート学習が中心ですが、定期的にスクーリング(面接授業)で学校に通い、実技指導を受ける必要があります。
どの課程を修了しても、得られる受験資格と美容師免許の価値は全く同じです。自分のライフスタイルに合った課程を選び、卒業(または卒業見込み)をもって受験願書を提出します。
試験はいつ?年2回の試験スケジュールと申請の流れ
国家試験は年2回、春期(冬)と秋期(夏)に実施されます。美容専門学校の卒業時期に合わせて、多くの場合、昼間・夜間課程の学生は「春期試験」を、通信課程(9月卒業)の学生は「秋期試験」を受験します。
大まかなスケジュールは以下の通りです。
- 春期試験:
- 願書受付: 11月頃
- 実技試験: 2月1日~
- 筆記試験: 3月上旬の日曜日
- 合格発表: 3月末
- 秋期試験:
- 願書受付: 5月頃
- 実技試験: 8月1日~
- 筆記試験: 9月上旬の日曜日
- 合格発表: 9月末
実技試験は実施期間が長く設定されており、受験者によって試験日・会場が異なります。筆記試験は全国で同日開催されます。受験申請から合格発表までの流れを理解しておきましょう。
📋 受験申請から合格発表までの3ステップ
願書の入手・提出 養成施設で配布される「受験案内」を入手。必要書類(写真、卒業見込証明書など)を揃え、受験料を振り込み、必ず簡易書留で郵送します。
受験票の受領・試験 試験の約1ヶ月前に受験票が届きます。記載された試験日・会場・時間を厳守。実技試験と筆記試験、両方を受験します。
合格発表・免許申請 試験研修センターのHPで合格を確認。合格者には「合格通知書」が届きます。これを受け取ったら、速やかに美容師免許の申請手続きを行います。
合格しただけでは美容師として働けません。合格後に「免許申請」を行い、厚生労働省の美容師名簿に登録されて初めて、正式な美容師となります。
【筆記試験】の科目と合格基準
筆記試験は全55問、60%以上の正答と全科目得点が必須です。マークシート方式で行われ、試験時間は1時間40分(100分)です。美容師法や公衆衛生、人体の構造、化学など、幅広い知識が問われます。
合格基準が非常に重要です。以下の2つの条件を「両方」満たす必要があります。
- 全55問のうち、60%以上(33問以上)の正答率であること。
- 7課目(5分野)のいずれにおいても0点がないこと。
つまり、たとえ合計点が33問以上でも、どれか1科目でも0点(全問不正解)があれば、その時点で不合格となります。ヤマ勘に頼らず、全科目をまんべんなく学習することが求められます。
📊 筆記試験の出題科目と問題数
| 分野 | 課目 | 問題数 |
|---|---|---|
| 1. 関係法規・制度 | 関係法規・制度 | 5問 |
| 2. 衛生管理 | 公衆衛生・環境衛生、感染症、衛生管理技術 | 計15問 |
| 3. 保健 | 人体の構造及び機能、皮膚科学 | 計10問 |
| 4. 香粧品化学 | 香粧品の化学 | 5問 |
| 5. 文化論・技術理論 | 文化論、美容技術理論、運営管理 | 計20問 |
| 合計 | 7課目・5分野 | 55問 |
【実技試験】の課題と合格基準
実技試験は「衛生」と「技術2課題」を減点方式で採点します。受験生が最も緊張するのが実技試験です。単に技術が上手いかどうかだけでなく、「美容師として安全・衛生的に業務ができるか」が厳しく審査されます。
実技試験は大きく「衛生上の取扱試験」と「基礎的技術試験」に分かれます。合格基準は、各項目で定められた減点の上限を超えないことです。
1. 衛生上の取扱試験(審査時間: 7分) 作業中、常に審査されます。用具の消毒、清潔なタオルの扱い、手指消毒のタイミング、毛髪の処理など、衛生的な動作が習慣化されているかを見られます。減点が20点以下であることが合格条件です。
技術が完璧でも、例えば消毒済みのハサミを床に落とし、消毒せずそのまま使おうとしたり、手指消毒を忘れたりすると、それだけで不合格(減点20点超過)になる可能性があります。衛生こそが実技試験の土台です。
2. 基礎的技術試験 技術力を問う2つの課題があります。第2課題は、試験の公示(春期は約11月、秋期は約5月)の際に「ワインディング」か「オールウェーブセッティング」のどちらかが発表されます。
📊 実技試験の課題と合格基準
| 課題 | 試験時間 | 合格基準(減点) |
|---|---|---|
| 第1課題: カッティング | 20分 | 減点30点以下 |
| 第2課題: ワインディング | 20分 | 減点30点以下 |
| 第2課題: オールウェーブセッティング | 25分 | 減点30点以下 |
| (常時審査) 衛生上の取扱試験 | 実技中すべて | 減点20点以下 |
実技試験に合格するには、上記「カッティング」「第2課題」「衛生」の3項目すべてで減点が上限を超えない必要があります。どれか一つでも基準を満たせないと、実技試験不合格となります。
受験料と「片方合格」の免除制度
受験料は25,000円、片方合格の免除は次回1回限りです。受験申請時に支払う受験料は、以下の通りです。(2024年時点)
- 実技試験及び筆記試験(両方受験): 25,000円
- 実技試験または筆記試験(片方免除): 12,500円
ここで重要なのが「免除制度」です。美容師国家試験は、筆記と実技の両方に合格して初めて「合格」となりますが、片方だけ合格点に達するケースもあります。
「筆記試験は合格したけれど、実技試験で不合格になった」(またはその逆)という場合、次に実施される国家試験(1回限り)において、合格した方の試験が免除されます。
例えば、春期試験で「筆記○、実技×」だった場合、次の秋期試験では申請すれば「筆記試験が免除」となり、実技試験のみに集中できます。受験料も半額の12,500円です。
⚠️ ただし、この免除は「次回1回限り」です。次の秋期試験でも実技に合格できなければ、その次の春期試験では免除の権利が失効し、再び筆記・実技の両方を受験し直す必要があります。
また、受験料と、合格後に免許を申請する際の「免許申請手数料(登録免許税9,000円+申請手数料5,200円など)」は全く別物です。合格後にも別途費用が必要だと覚えておきましょう。
よくある質問(FAQ)
私(筆者)が美容師として、また後輩の指導にあたる中でよく受ける質問をまとめました。
Q1. 試験は年に何回ありますか?
A1. 年に2回、春期(2~3月)と秋期(8~9月)に実施されます。美容学校の昼間・夜間課程の学生は卒業時期に合わせて春期試験を、通信課程(9月卒業)の学生は秋期試験を受験するのが一般的です。
Q2. 筆記と実技、片方だけ合格した場合はどうなりますか?
A2. 次に実施される試験(1回限り)において、合格した科目が免除されます。例えば、春期試験で実技のみ合格した場合、次の秋期試験は筆記試験のみの受験となります。ただし、その秋期試験でも筆記に不合格となった場合、免除資格は失効し、その次の試験では再び実技と筆記の両方を受験する必要があります。
Q3. 筆記と実技、どちらが難しいですか?
A3. 難しさの種類が異なります。合格率データだけを見ると、実技試験の方が合格率が高い(筆記試験で不合格になる人が多い)傾向があります。筆記試験は「全科目0点不可」という基準があるため、苦手分野を作れない難しさがあります。一方、実技試験は練習量で技術は安定しますが、本番の緊張による「衛生上のうっかりミス」で一発不合格になる怖さがあります。
Q4. 実技の第2課題(ワインディング/オールウェーブ)はいつ決まりますか?
A4. 受験願書の配布が開始されるタイミングで、理容師美容師試験研修センターから公式に発表されます。おおむね、春期試験は11月上旬頃、秋期試験は5月上旬頃に「今回の第2課題は○○です」と公示されます。それまでは両方の練習をして備える必要があります。
⭐ まとめ
美容師国家試験の制度は複雑に見えますが、ポイントは「筆記」と「実技(衛生含む)」の2つを同時にクリアすることです。それぞれの合格基準を正確に把握し、バランスよく対策を進めましょう。
- 美容師になるには、養成施設を卒業し、国家試験に合格する必要がある。
- 試験は年2回(春期・秋期)で、「筆記」と「実技」の両方に合格しなければならない。
- 筆記試験: 全55問中60%以上の正答、かつ全科目0点なしが合格基準。
- 実技試験: 「衛生」「カッティング」「第2課題」の3項目すべてで、減点が規定(衛生20点、技術30点)を超えないことが合格基準。
- 免除制度: 片方合格の場合、次回1回限りで合格科目が免除される。
- 受験料: 25,000円(免除者は12,500円)。合格後の免許申請費は別途必要。
特に実技試験は、技術の上手さよりも「衛生観念」と「減点されない丁寧な作業」が求められます。学校の先生の指導をよく聞き、試験要項を隅々まで読み込むことが合格への近道です。
🔍 最新情報の確認をお忘れなく
美容師法や衛生基準は、法改正や社会情勢により変更されることがあります。本記事の情報は投稿時点のものであり、古くなっている可能性があります。
⚠️ 受験直前には、必ず以下の公式サイトで最新の試験要項・出題基準・法令をご確認ください。
• 理容師美容師試験研修センター(試験要項・過去問)
• 厚生労働省(美容師法・関係法令)
• 通学中の美容専門学校(最新教科書)
※本記事の情報に基づいて生じたいかなる損害についても、当サイトは責任を負いかねます。
📚 参考文献
- 公益財団法人理容師美容師試験研修センター(公式サイト・受験案内・合格基準)
- 厚生労働省(美容師法・関連法令ページ)
- 公益社団法人日本理容美容教育センター「美容技術理論」
- 公益社団法人日本理容美容教育センター「衛生管理」
※本記事は美容師国家試験の学習を補助する一般情報です。健康上の問題(アレルギー、皮膚疾患等)については専門の医師に相談してください。
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