はじめに:オキシ選定がカラー技術の核心である理由
💡 オキシの濃度を制する者は、ヘアカラーの仕上がりを自在に操れます。こんにちは、美容師歴20年以上の「髪技屋さん」です。サロンワークで毎日のように行うヘアカラー。その仕上がりを大きく左右するのが、2剤である「オキシ(過酸化水素水)」の選定です。なんとなく「リフトさせたいから6%」「ダメージ毛だから3%」と選んでいませんか?
2025年のヘアカラーのトレンドは、引き続き「透明感」と「ダメージレス」がキーワードです。特に、スモーキーベージュやオリーブアッシュのような繊細な色味を表現するには、アンダーレベルのコントロール、つまりオキシの適切な選定が不可欠。オキシ濃度が1%違うだけで、明度、ダメージ、そして色落ちのスピードまで大きく変わってしまいます。
この記事では、多くのプロ美容師が意外と深く学んでこなかったかもしれない1.5%、3%、6%のオキシの役割を徹底的に比較・解説します。私のサロン経験に基づいた具体的なヘアカラーレシピや失敗しないためのコツも交えながら、あなたのカラー技術をもう一段階レベルアップさせるための知識をお届けします。
【基本の化学】オキシ濃度が髪に与える3つの影響
💡 オキシは「ブリーチ作用」と「染料の発色」の2つの役割を担っています。ヘアカラーの化学反応は、1剤のアルカリ剤がキューティクルを開き、2剤のオキシ(過酸化水素)が毛髪内部で作用することから始まります。オキシの濃度は、この化学反応の強さをコントロールする重要な要素です。
1. 明度(リフト力)への影響
オキシの最も分かりやすい役割は、メラニン色素を分解して髪を明るくする「ブリーチ作用」です。濃度が高ければ高いほど、過酸化水素の分解によって発生する酸素量が多くなり、リフト力は強くなります。
- 6%オキシ: 最もリフト力が高く、新生部や暗い髪を明るくする際に使用します。日本の薬機法で認められている上限濃度です。
- 3%オキシ: 中程度のリフト力。主に既染部のトーン維持や、1〜2レベル程度のトーンアップに使用します。
- 1.5%〜2%台の低濃度オキシ: リフト力はほとんどなく、主に色味の補充(トナー)やトーンダウンで使用されます。
2. ダメージへの影響
リフト力とダメージは表裏一体の関係です。オキシ濃度が高いほどブリーチ作用が強まるため、毛髪への負担も大きくなります。過酸化水素はメラニンだけでなく、髪のタンパク質も酸化させてしまうため、これがダメージの原因となります。特に、既にダメージを受けている毛先部分に高濃度のオキシを使用すると、過剰なダメージにつながるため注意が必要です。
⚠️ 安易な6%オキシの全頭塗布は、深刻なダメージや色ムラの原因になります。新生部と既染部での使い分けがプロの鉄則です。
3. 発色と色落ちへの影響
オキシは染料(酸化染料)を酸化重合させ、発色させる役割も担っています。
一般的に、低濃度のオキシの方が染料の酸化を穏やかに行うため、深くしっかりと発色し、色持ちが良い傾向があります。 逆に高濃度のオキシは、ブリーチ作用が優先されるため、染料の発色がやや浅くなることがあります。ハイトーンの透明感カラーを実現するにはブリーチが必須ですが、その後のオンカラーでは低濃度オキシを使い、ダメージを抑えつつ色素をしっかり定着させることが色持ちの鍵となります。
【徹底比較】1.5% vs 3% vs 6% オキシ選定マトリクス
💡 施術の目的(リフトか、発色か、ダメージレスか)でオキシを選びます。ここでは、それぞれのオキシ濃度がどのような場面で最適なのか、私のサロンワークでの経験を基に比較解説します。この使い分けをマスターするだけで、カラー提案の幅が格段に広がります。
⚖️ オキシ濃度別 効果比較マトリクス
| オキシ濃度 | 明度(リフト力) | ダメージ | 色持ち | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| 6% | ★★★(高い) | ★★★(大きい) | ★☆☆(やや早い) | 新生部のリタッチ、バージン毛のトーンアップ、白髪染め |
| 3% | ★★☆(中程度) | ★★☆(中間) | ★★☆(標準) | 既染部のトーン維持、微アルカリカラー、ローライト |
| 1.5% | ★☆☆(ほぼなし) | ★☆☆(少ない) | ★★★(良い) | ブリーチ後のトナー、トーンダウン、色味補充 |
6%オキシ:リフト最優先の場面で
新生部のリタッチや、地毛をしっかり明るくしたい場合に選択します。白髪染めにおいても、白髪をしっかり染めつつ地毛を明るくして馴染ませるために6%が基本となることが多いです。ただし、既染部に使うとダメージが進行し、色が沈み込む(暗くなる)原因にもなるため、塗布範囲の見極めが重要です。
3%オキシ:最も汎用性の高い万能選手
私の経験上、既染部へのカラー施術で最も使用頻度が高いのが3%です。適度な発色力と、ダメージを抑制する力のバランスが非常に良い。特にダメージケアを意識した施術では、低アルカリのカラー剤と3%オキシの組み合わせが、ツヤと色持ちを両立させるための黄金律です。
1.5%オキシ:ダメージレスと発色を極める
ダブルカラーやバレイヤージュ後のオンカラー(トナー)で絶大な効果を発揮します。ブリーチでリフトさせた髪には、これ以上明るくする必要はありません。必要なのは、ダメージを最小限に抑えながら、狙った色味を的確に入れることです。1.5%オキシはリフト力をほぼ持たないため、染料を穏やかに発色させ、アンダーカラーを濁らせずにクリアな色味を表現できます。
【実践レシピ】髪質と施術でここまで変わるオキシ選定術
💡 正しい髪質診断が、最適なオキシ選定と調合レシピの出発点です。必ず施術48時間前にパッチテストを実施してください。アレルギー反応が出た場合は施術を中止し、医師に相談してください。
ここからは、実際のサロンワークで明日から使える具体的な調合レシピと手順を紹介します。
📋 オキシ選定カラーの基本3ステップ
髪質・履歴診断 新生部、既染部、ダメージレベルを正確に把握。
薬剤選定と調合 部位ごとに最適なオキシ濃度と薬剤を決定。
的確な塗布と放置 時間差塗布(ゼロテク)と放置時間の厳守。
ケース別・調合レシピ
以下のレシピはあくまで一例です。お客様の髪質やアンダーレベルに合わせて、補色を加えたり混合比率を調整したりしてください。
📊 髪質・目的別 おすすめ調合レシピ
| ケース | 薬剤(例) | オキシ濃度 | 混合比 | ポイント |
|---|---|---|---|---|
| 新生部リタッチ (2cm) | ミルボン オルディーブ 8-10 | 6% | 1 : 1 | 既染部に繋がるように根元から1cmは空けて塗布し、時間差で根元ギリギリまで塗布する。 |
| 既染部トーン維持 (10レベル) | ウエラ イルミナ スターダスト10 | 3% | 1 : 1 | ダメージを考慮し、低アルカリ処方の薬剤と組み合わせるとさらに効果的。放置時間は15分目安。 |
| ブリーチ後のオンカラー (17レベルベース) | シュワルツコフ イゴラ ピクサムF B-10 + V-12 | 1.5% | 10 : 1 | 黄ばみを消す補色の紫を少量MIX。クリアで高彩度な発色が可能。放置時間は5〜10分でチェック。 |
| 白髪染め (白髪率30%) | ウエラ コレストン+ 8/00 + 8/11 | 6% | 2 : 1 | 白髪の染まりとリフト力を両立。毛先は3%に切り替えてダメージを軽減する。 |
プロのコツと陥りがちなNG例
💡 失敗の多くは、髪の状態を見誤った画一的な薬剤選定が原因です。長年のサロンワークで、数々の成功と失敗を見てきました。ここでは、オキシ選定におけるプロならではのコツと、避けるべきNG例を対比形式でご紹介します。
⚖️ オキシ選定 NG vs OK
❌ NG例
- 新生部も既染部も同じ6%オキシで塗布する。
- ダメージ毛にリフト力だけを求めて6%を使用する。
- オキシを混ぜて4.5%などの中間濃度を作る(メーカー非推奨)。
- 放置時間を自己判断で大幅に短縮・延長する。
✅ OK例
- 新生部は6%、毛先は3%や1.5%と塗り分ける。
- ダメージレベルに応じてオキシ濃度を的確に下げる。
- メーカー推奨の2%や2.8%など正規の低濃度オキシを活用する。
- タイマーを使い、メーカー指定の放置時間を守る。
特に陥りやすいのが、新生部から毛先まで同じ薬剤・同じオキシで一気に塗ってしまうことです。 これは新生部と既染部の明度差やダメージ差を無視した施術であり、毛先が暗く沈んだり、ダメージが加速したりする最大の原因です。手間を惜しまず、薬剤を2カップ、3カップと用意して塗り分けることが、お客様の満足度と信頼に繋がります。
【個人体験】 以前、アシスタント時代にリタッチの際、誤って毛先まで6%の薬剤を伸ばしてしまい、毛先がパサパサになり色が沈んでしまった苦い経験があります。その失敗から、薬剤の塗り分けとオキシ選定の重要性を身をもって学びました。今では、お客様の髪を「素材」として最大限に大切に扱うことを常に心がけています。
よくある質問(FAQ)
💡 お客様や後輩からよく聞かれるオキシに関する疑問にお答えします。- Q1. オキシ濃度が高いほど、色は明るく染まりますか?
- A. はい、髪のメラニン色素を分解する力(リフト力)は強くなるため、ベースは明るくなります。 ただし、染料の発色という点では、高濃度オキシはブリーチ作用が強まる分、発色がやや浅くなる傾向があります。狙う明度と彩度のバランスを考えて選定することが重要です。
- Q2. ダメージを最小限にするには、どのオキシを選べばいいですか?
- A. 髪を明るくする必要がない場合は、1.5%や3%などの低濃度オキシを選びます。 特に、ダメージケアを最優先するなら、リフト力のほぼない1.5%が最適です。ブリーチ後のオンカラーや、既染部の色味補充に最適で、髪への負担を大幅に軽減できます。
- Q3. 白髪染めに適したオキシ濃度はどれですか?
- A. 一般的には6%が基本です。 白髪をしっかり染めつつ、周りの黒髪も明るくして白髪をぼかす効果(リフト力)が必要なためです。ただし、白髪が少なく、地毛をあまり明るくしたくない場合や、毛先の褪色部分に色を入れるだけの場合は3%を使用することもあります。
まとめ:オキシ選定を極めて、顧客満足度を高めよう
今回は、プロ美容師にとって基本でありながら奥深い「オキシの選定」について掘り下げてきました。1.5%、3%、6%という3つの選択肢を、お客様の髪質、ダメージレベル、そして求めるデザインに応じて的確に使い分けることが、プロの髪の染め方の真髄です。
2025年も続くであろう透明感カラーやダメージレスへのニーズに応えるためには、高濃度オキシによるリフト力だけに頼るのではなく、低濃度オキシを駆使した緻密な薬剤コントロールが不可欠です。オキシ選定を極めることは、あなたのカラー技術の精度を高め、お客様からの信頼を勝ち取るための強力な武器となります。
🎯 カラー成功のためのオキシ選定3つのポイント
この記事で紹介した知識やレシピを、ぜひ明日からのサロンワークに活かしてみてください。 さらに詳しい施術手順は、YouTubeチャンネル「髪技屋さん」の動画でダブルカラー施術手順を解説しているので、そちらも参考にしてください。
📚 参考文献
- ウエラ プロフェッショナル 公式サイト
- ミルボン オルディーブ ブランドサイト
- 日本ヘアカラー工業会 ヘアカラーリングの基礎知識
※本記事は一般情報であり、医療アドバイスではありません。アレルギーや症状が気になる場合は医師に相談してください。
この記事が役立ったら、美容師仲間とシェアして技術を高め合いましょう!
